第22章 鉄の腸
――上を見上げれば、空が泣いていた。
「花のかんばせ、仄かに色づき、ひらひらと舞う。ひらひらと舞う。」
「――槙島は逮捕。ヘルメット犯罪者達は壊滅。泉ちゃんも無事に保護。」
「一件落着――、これでお終い?」
六合塚の言葉に、宜野座は顔を顰める。
「縢が行方不明だ。」
「二係でもどさくさに紛れて執行官が一人逃亡。」
「――監視官。縢が逃げるかね?」
がしがしと頭を掻きながら、征陸が立ち上がる。
「――私達、勝ったと言えるんでしょうか?」
朱がポツリと呟く。
泉の頭を膝に乗せていた慎也は、朱を横目で見た。
「デカの仕事は基本的に対症療法だ。被害者が出てから捜査が始まる。そう言う意味じゃハナから負けている。だが負け試合をせめて引き分けで終わらせる事は出来た。それだけで良しとするしかない。」
そう言いながら慎也は、そっと泉の頭を撫でる。
「結局シビュラシステムの安全神話ってなんだったんでしょうか?」
「安全完璧な社会、なんて唯の幻想だ。俺達が暮らしているのは今でも危険社会なんだ。」
「――危険?」
反芻するように朱が呟く。
「便利だが危険な物に頼った社会の事さ。俺達は政府によってリスクを背負わされていた。しかしそれが巧妙に分散され分配されていたので、誰も気付けなかった。」
「――違うわ。気付いても気付かなかった事にしたのよ。」
不意に下から聞こえた声に、慎也は頭を撫でていた手を止める。
「起きたのか。気分はどうだ?」
「最悪よ。随分と強いの飲ませてくれたわね。頭がガンガンするわ。」
起き上がろうとした泉は自分の両手が縛られている事に気付く。
「――やだ。慎也ってばこっちの趣味があったの?」
「まぁな。普段のお前なら絶対許してくれないだろ?水は?」
泉を抱き起こしてやれば、慎也が楽しそうに笑う。
「手が使えないんじゃ飲めないわ。」
「飲ませてやろうか?」
グイッと顎を引かれて、泉は触れ合うか触れ合わないかの慎也の顔を見る。
「――朱ちゃんが見てるわよ?」
「そりゃ残念だ。」
まるで試すような泉の物言いに、慎也は笑った。