第2章 療養
「あの、何か私にご用でしょうか?」
騎士見習いの彼が私に何の用事なのだろう。もしかして事件のことで何か有ったのだろうか。そう思って問いかけたのだけれど、騎士見習いの彼は何かを言いかけては口を閉じてを数度繰り返した後、やっと言葉を発した。
「あの、大丈夫かな、と思って…」
「えっと、少なくとも貴方よりは大丈夫、です?」
多分、と口にして改めて彼の姿を見た。彼は頬に大きなガーゼを張り、首もとと頭に包帯を巻いていた。結構な重症では無いだろうか?正直、私の心配をしている場合では無いと思うのだけれど。
「私より、貴方の方が重症のような気がするのですが…大丈夫ですか?さっき扉でぶつけた所も赤くなってますよ」
ぶつけた時半泣きだったから、結構な痛さだったと思う。赤くなっている額が気になって手を伸ばした。
額に触れようとした瞬間、彼はビクッと体を跳ねさせると慌てて私から一歩身を引いた。先程よりも顔が更に赤くなっている。
「ぼ、僕は大丈夫です!これは自業自得で…」
過剰に反応する彼が何と無く可愛くてつい笑ってしまった。
「え、何?僕変な事を言いましたか?」
「い、いえ、そんな訳では無いんですけど」
お姉様方が、彼を可愛いと言う理由がわかってしまった。体は大きいのに小動物的な反応と言うか?私は何とか笑いを堪えながら目もとを拭った。
「心配して下さったんですか?私は大丈夫ですよ。セルナール様と言い騎士の方には優しい方も多いのですね」
私を襲った相手が騎士だったとしても、それが全てだとは思わないもの。
私の言葉に彼は何だか複雑そうな表情を浮かべた。
「あのさ、僕ナギって言うんだ。何か困ったことが有ったら何でも言ってよ。歳もきっと近いでしょ?」
僕18歳、と笑う姿にこれでも私はナギさんより歳上だよ、と笑い返した。
「ナギ、こんな所で何をしているんです?」
冷たい声がした。振り返ると、そこには綺麗な笑みを浮かべるセルナール様が居た。隙のない笑顔。それが何と無く怖く感じてしまうのは私の気のせいだろうか。
「セルナール様っ」
ナギさんは彼の姿に明らかに動揺している。
「ナギ、まだ仕置きが足りないみたいですね?」
それを聞いてナギさんの顔色が明らかに青くなった。
「…早く仕事に戻りなさい」
ナギさんは必死で頷くと、逃げるようにその場を走り去った。
