第2章 療養
「先生、私そろそろ仕事に戻りたいんですが」
私は毎日様子を見に来てくれるお医者様に訴えた。このままでは太ってしまう。心なしか既に体が重くなってきている様な気さえする。
私が向けた視線の先にはセルナール様が差し入れて下さったお菓子や果物が、小さな山のようになっていた。
女性として魅力的な体つきをしている先生は、私の訴えに視線を斜め上へと泳がせた。
「うーん…そうだね、私もあんたが良いと言うなら日常生活に戻るべきだと思うんだけど…」
「なら、明日から仕事に戻ります」
「あー…」
先生の歯切れが悪い。けれど、もう結婚も望めないとなると自分で稼いで生きていくしか道は無いのだから、一刻も早く仕事に戻りたい。
私の本気を察したのか、先生が大きな吐息をつくとしょうがないとばかりに頷いた。
「わかったよ、何とか説得してみる」
少し時間をくれ、と先生は部屋を後にした。
説得?誰を?
体の痛みはもう無い。違和感も気にならなくなって来た。眠ると時々嫌な夢を見るけれど、所詮夢でもう終わったことなのだからと割り切った。
病気でもないのに何日もベッドの上に居ると、手持ち無沙汰で仕方がない。
ちょっとだけ自分の部屋に戻って本を持ってこよう。
一応のためとアンナが持ってきてくれていた服に着替えて、私は扉に手をかけた。久しぶりの部屋の外。出るぞと扉を開けるとゴンと何かにぶつかった。
「いたっ!」
その声に自分が扉を開けたせいで、だれかがぶつかったのだと気付いて慌てて扉の向こう側を覗いた。
「す、すいません!」
扉の向こう側に居たのは、男の人だった。
「い、いえ、僕がこんな所に居たのが悪いので」
と、赤くなった額を押さえて涙目で答える男の人には見覚えが有った。セルナール様と時々一緒に居る騎士見習いの人だ。
栗色のカールがかった柔らかそうな髪に大きめの緑の瞳。お城のお姉さま方が弟に欲しい!と言い張る可愛い笑顔が印象的な人だった。
何故か今は怪我だらけで、包帯やらガーゼやらが目立っているけれど。
そんな人が何で私の病室の前に居るんだろう?
その人は私の顔を見ると、頬を真っ赤に染めてもじもじと体を揺らし所在なさげに視線を泳がせた。
時おりうかがうようにチラリとこちらに視線を送り、私と視線が絡むと慌てて反らしてしまう。
一体なに?