第2章 療養
「セルナール様、ここまで運んで頂いたのにしっかりとお礼も言えず…申し訳ありませんでした」
昨日、ろくに話が出来なかったのを思い出して私は改めて頭を下げた。
「いえ、こちらこそ私の力が及ばす貴女を助けられませんでした。本当に申し訳有りません」
セルナール様が、悔しそうに唇を噛み締める。頭を下げる彼に慌てて頭を左右に振って見せた。
「セルナール様のせいでは有りません!」
「城の警備も騎士団の務めですから。それがこんな事に…」
きっと騎士団の副団長と言う役職のせいか、私の身に起こったことに責任を感じているのだろう。未だに頭を上げないセルナール様に私は申し訳無さが込み上げる。
「私は、もう大丈夫ですから」
「…無理はしないで下さい。私は貴女の力になりたい」
未だに申し訳なさそうな表情を浮かべながら顔を上げたセルナール様は、私をじっと見詰めてそんな事を口にした。これが普段の状態であったのなら口説き文句にも聞こえて赤面ものなのだろうけれど、これはきっと私に対する同情と罪悪感から。
「わかりました。では何か困ったことが有ったらまた相談にのって下さい」
「はい、勿論です」
セルナール様が嬉しそうに笑ったので、私もつられるように笑みを浮かべた。
「それで、誠にお伝えしにくいのですが…」
セルナール様が私から視線を外した。
「貴女のご両親には貴女の状況を伝えさせて頂きました」
その言葉に私は一瞬息が止まった。いや、こうなったからには今後の事も有るだろうし伝えないわけにはいかないだろう。私は自分に落ち着けと言い聞かせて大きく深呼吸をした。
「それで、貴女はお見合いをされる予定だったとか。その、言いにくい事なのですが、残念ながら…」
「やっぱり、無くなってしまいました?」
「はい」
申し訳なさそうに頷いたセルナール様に、私は元々乗り気では無かったので構わないんです、と付け足した。そう言うとセルナール様の表情から僅かだけれど緊張が解けた様に見える。
私に泣かれるとでも思っていたのだろうか。
お父様やお母様には申し訳無いけれど、見合い話は無くなって良かった。それにこんな事になったのだから、きっともう結婚は無理だろう。
こうなったら開き直って生きていくしかない!
セルナール様を思う気持ちを秘めながら、お城で働いて立派な独り身を貫いてやるんだから。
