第2章 療養
翌日、私が心配だと離れることを渋るアンナを仕事に送り出して私は手持ち無沙汰にベッドヘッドに凭れながら窓の外を見ていた。
体の痛みはだいぶ引いて、後はあそこの違和感が残るだけだった。お医者様も何度か見に来てくれた。女性のお医者様をわざわざセルナール様が選んで下さったのだ。
そう言えば、あの日私は見合いのために実家に帰る予定だった。見合い話しはどうなっただろうか。両親にも何も連絡を入れていない。
そんな事をぼーっと考えていると扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
「ハルラさん、セルナールです。入っても宜しいですか?」
「あっ、は、はい!大丈夫です!」
私は慌てて手櫛で髪を整えて服の乱れを直した。肩に羽織った上着を引き寄せる。
「失礼します」
扉から入って来たセルナール様は、遠くから見るよりちゃんと男の人に見える。いや、勿論男の人なのはわかってるんだけどね。へたな女の人より綺麗で…だけれどやっぱり私より大きいんだなぁ。
彼は昨日の様に私から距離を空けた場所で足を止めた。どうしたのだろうと思っていると、彼が態とらしく肩を竦めて見せた。セルナール様の深い藍色の髪がサラリと肩から流れる。
「あのー…ここからですとお話がし難いので、もう少し近付いても構いませんか?」
おどけて見せる彼が、私を気遣っているのだとわかって小さく吹き出してしまった。そして私は頷きながらセルナール様を促した。
「ええ、大丈夫です。昨日はまだ少し混乱していて…今はもう大丈夫ですから」
そんな私の様子にセルナール様が安心したように表情を緩めると、ゆっくりと、私を脅えさせないようにうかがいながら距離を詰めてきた。
うん、恐くない。大丈夫。
セルナール様はベッドの傍に備え付けられた椅子を引くとそこへ腰を下ろした。そしてサイドボードに可愛らしくラッピングされた篭を置いた。
「甘いものですが、お嫌いでなければどうぞ」
篭の中には沢山の可愛らしいクッキーが入っていた。それには見覚えがある。街で人気があるクッキーで、直ぐに売り切れてしまうので早くから長い時間並ばないと買えないらしい。
「わぁ、有り難うございます!」
セルナール様の優しい気遣いに自然と表情が緩んだ。
でもきっとただのお見舞いじゃない。
セルナール様は騎士だからきっとお仕事の為にここに来たのだろう。
