第2章 療養
●リキヤ●
「おいナギ、俺の聞き間違いで無ければセナの奴、犯すとか何とか言ってなかったか?」
「は、はい、僕にもそう聞こえたような…」
物騒な事を口にして俺の親友は魔物の討伐へと旅立っていった。
俺の親友は騎士団の副団長をしている。名前はセルナール。大貴族という身分も有り、顔も良くて頭の回転も早く剣の腕も立つ。しかし、いかんせん性格に問題がある。
あいつを見て黄色い声を上げているお嬢さん方にあいつの本性を見せてやりたい。…そんな事をしたら倍返しじゃ済まないからやらないけどさ。
「えっと、三日後に帰って来て嬢ちゃんを犯す、と…」
「…はい」
「で、忙殺の中で時間がないから俺達に彼女を拉致して約束の時間に指定の場所に連れて来いと?」
「…言ってましたね」
「とにかく時間がないから挿れるだけ挿れると?」
「…言ってました」
セルナールに仕えるナギが、引きつった笑いを浮かべる。
「あははは、でもまさかそんな…冗談ですよね?」
「あいつが冗談を言ったことが有ったか?」
そこまで言ってナギが口を閉じた。
そう、あいつが冗談を言わないことはナギも俺も十分身に染みて解っている。
以前、隣国の大臣を独りで暗殺してきて下さい、と女たちが見たら黄色い声を上げて喜びそうな爽やかな笑顔で無茶ぶりをされた時は流石に冗談かと思って笑い飛ばした。
が、翌日、俺の籍は騎士団から消えていた。
奴はマジだったのだ。
いや、何とかやり遂げたけどさ?
あの時は死ぬほど頑張った。
ナギにも心当たりが有るのか、顔色が悪くなっている。
あいつはかなりの無茶はさせるが、勝算の無い勝負はしない。大臣の暗殺の件にしても、しっかりと周囲から手を回して下調べも現地の協力者も確保してあった。
隣国の大臣の暗殺だ。滅多な奴には頼めない、人数も割けない。だから、あいつが俺に命令したのも理解はできる。あいつなりに色々と考えているのだ。
だから、きっと今回も本気なのだろう。
「はぁ、嬢ちゃん…悪いな」
俺は頭を抱えた。
あいつに惚れられたのが運の尽きだと思ってくれ。
でも、こんな事でセナと嬢ちゃんは幸せになれるのだろうか。いや、あいつの事だ、きっと上手くやるに違いない。
俺は二人が幸せになれる事を祈った。
けして、セナの言葉に従わなかった時の報復を恐れた訳じゃねぇ。