第2章 療養
●セルナール●
扉をノックしようとして上げた拳が直前で止まった。中から彼女の泣き声が聞こえたからだ。
感情を剥き出しにして泣き叫ぶ彼女の様子は、普段からは想像ができないものだった。
自分は彼女にそれだけの事をしてしまったのだと改めて理解して罪悪感に胸が痛んだ。
それでも俺は後悔していない。彼女が俺のものになるのなら何だってする。そう決めたのだ。
俺は彼女の事が好きだ。
でも彼女は他の女たちの様に俺の注意を惹こうと話しかけて来たり、俺を見て黄色い声を上げたりしない。彼女は俺に興味がないのだ。
それでも、俺は女性にモテている自信は有ったし身分だって剣の腕だって有る。何時かは彼女に自分の気持ちを打ち明けてそう言う関係になりたいと思っていた。
でも今の自分では駄目だ。まだ足りない。
そんな時に、団長から次の団長にならないかと言う打診を受けた。団長は自分の領土に戻って何故か農業をやりたいらしい。
彼らしいと言うか何と言うか。
でも俺はこれだと思った。団長なら彼女も自分に興味を持ってくれるかもしれないと考えた。俺はその話を受けた。
でも団長はその地位を直ぐ俺に譲り渡す気は無いらしく、俺に団長の仕事を押し付けるだけ押し付けて来る。目が回りそうなほどに忙しい。
当の団長は遊び回っている。
おっさんは早く引退しろ、と我慢の限界が近付いてきていたそんな矢先の事だった。
彼女の見合い話が急に決まったのだ。
俺は慌てた。国内の相手なら誰であろうとその見合い話を潰せる自信がある。現に何度か握り潰してやった。
でもそれが国外の、しかも結構な身分の相手なら話しは違ってくる。それに時間が有ればまだ何とか手を回す事も出来た。しかし、俺は今から魔物の討伐で暫く王都から離れなくてはならない。
何でこんな時に、と思わずにいられなかった。
彼女の見合いは三日後。それまでに何とかしなくてはならない。焦れば焦るほど、彼女の見合い相手を暗殺する事位しか思い付かない。
いや、いっそのことそうしてしまおうか。
しかし、もし俺が居ない間に彼女が誰かのものになってしまったらどうする?そんなのは堪えられない。ならどうする?どうすれば良い?
そうだ、彼女を俺のものにしてしまえば良い。
三日後までに任務を終わらせる。それまではリキヤとナギに彼女を見張らせよう。
俺はそう決めたのだった。
