第2章 療養
「申し訳有りませんハルラさん。私がもっと早く通りがかって居たら…」
セルナール様が頭を下げた。謝られて、私は慌てて顔の前で手を振りセルナール様の言葉を否定する。
「いえ!助けて頂いただけでも十分有り難いですから!」
どうも有り難うございました、と私も頭を下げた。頭を下げながら私はまた泣き出したい気持ちでいっぱいだった。
あぁ、やっぱりセルナール様は私が汚れてしまった事を知っている。彼にだけは知られたく無かったのに。
でもここで泣いたらきっとセルナール様を困らせてしまう。私はぐっと唇を引き結んで泣くのを堪えた。
「………」
暫く気遣うような視線を感じていたのだけれど、セルナール様は空気を変えるように小さく息を吐き出すとわざと明るい声を出した。
「騎士団の医務室ではなく、城の医務室を借りました。話しは通していますから今はゆっくり休んで下さい」
仕事も何も気にせず、と口にしてセルナール様が踵を返して扉へと向かった。扉に手をかけて振り返ると、優しく笑ってくれた。
「話しはまた後日にしましょう。…何かあれば遠慮無く私を呼んでくださいね。また来ます」
「有り難うございました!」
アンナが私の代わりに礼を言った。私はそれにならうように慌てて頭を下げる。
セルナール様は小さな頷きを残して、扉の向こうへと去っていった。
「…ビックリした」
アンナは私がセルナール様に密かに思いを寄せていることを知っている。だから私の境遇を思ってか、一瞬複雑そうな表情を浮かべたけれど余り気遣いすぎても良くないと思ってくれたのだろう。話を合わせてくれた。
「そうだよね、驚いたよね。でも、私はもっと驚いたよ。私が呼ばれてここに駆け付けた時、セルナール様は意識の無いハルラの手を握って心配そうに見詰めていたんだもの」
そう言われて私は自分の手を見てみた。いや、握られていたからと言ってその名残りが残っているわけでも無いのだけれどね。
でも、セルナール様が私の手を握ってくれていたのだと思うとじんわりと手が温かく感じた。
「ほら、セルナール様も言ってたでしょ?今はとにかく休んで」
アンナは私の肩を押して倒すと、優しく掛け布団をかけ直してくれた。そして衿元を優しく叩いて眠りへと促してくれる。
「傍に居るから寝なよ」
私はアンナの気遣いに感謝して再び目を閉じた。
