第2章 療養
どれくらい泣いていただろうか、静かな部屋には私のしゃくりあげる声と鼻を鳴らす音だけが響いている。
思いきり泣いて混乱していた気持ちがいくらか落ち着いた。
何時までも泣いてる訳にはいかない。
おこってしまった事は仕方ない、とまでは言えないけれど。何時までもグジグジ泣いていても何にもならないんだもの。
私は目元を擦ると、アンナから体を離した。
「アンナ、有り難う。もう大丈夫だから」
「ハルラ…」
心配そうな彼女に笑みを作って見せる。
その時、扉をノックする音が聞こえた。
「私です。入っても構いませんか?」
その扉越しの声にゾクリと鳥肌が立った。私にのしかかって来た男の人の声に似てる。
『貴女が悪いんですよ』
『…これで、貴女は私のものだ』
私を犯しながら、そう囁いた男の人の声。私は体を強張らせて布団を握り締めた。
「あ、はい!大丈夫です」
アンナが慌てて私から離れると、私の代わりに返事をした。すると扉がゆっくりと開き、そこから思いもよらない人が現れた。
「セルナール様…」
扉から現れたのは私の憧れているセルナール様だった。
彼の瞳が私を捉える。
ふと、その瞳が不安気に揺れた気がした。でもそれは気のせいだったみたいで直ぐにセルナール様は私を見て気遣うような優しい笑みを浮かべた。
「ハルラ、副団長のセルナール様よ。貴女を見付けてここに運んでくれたの」
アンナの言葉に驚いた。セルナール様が私を助けてくれたんだ。でも、きっとみっともない姿まで見られてしまった。そして私の身に何が起こったかもセルナール様は知っているに違いない。
私はセルナール様から逃げるように視線を自分の手元へと落とした。
「ハルラさん、気分は如何ですか?体は…」
労るように優しく声をかけながらセルナール様がベッドへと近付いてくる。私は体を硬くした。
それに気付いたのだろう、セルナール様は足を止めてそれ以上近付いては来なかった。
「気分も体の方も…良くは無いですよね」
セルナール様が私をどうこうする事なんか有り得ない。あぁ、セルナール様とあの男の人を間違えてしまうなんて。ごめんなさい、セルナール様。
私はセルナール様の言葉に唇を噛んで俯いた。
憧れのセルナール様とやっと話す事が出来るのに、それがこんな時だなんて思いもしなかった。