第13章 ここから去ったひとの子守唄が聞こえた気がした
大好き、だと何度言っても足りないの。
Ep-13:ここから去ったひとの子守唄が聞こえた気がした
「千景~!だ~い好き!」
「聞き飽きた。」
日課のように綾女はそう言うのだ。
臆面もなく好きだなんて言うものだから、あっさりと聞き入れるしかない。
「知ってる?言葉には言霊が宿るんだよ。」
「――だからどうした?」
千景は書物から顔を上げずに答える。
すると近くにいた綾女の顔が、ニュッと下に現れた。
「――見えん。」
「だからね、毎日言ってたら『永遠』になるかなぁって思ったんだ。」
「バカな頭で難しい事を考えるなと前に言わなかったか?」
「うん!でもいいの~!好きだよ、千景。」
「勝手に言ってろ。」
ベシッと綾女の頭を叩いて、千景は膝の上から退かす。
「いったぁぁい!――もう千景のイケズ~。」
「どこで覚えた、そんな言葉。」
「し~ちゃんが言ってた。千景はイケズだって。」
「不知火、後で殺す。」
その時、不知火が悪寒を感じたのはまた別のお話。
「で?お前が俺に好きだと言うのは毎日の事だが、突然その理由を話した心はなんだ?」
「さっすが千景!分かってる~!もうすぐ京の五山送り火でしょ?連れてって。」
「――気が向いたらな。」
ニコニコと凝りもせず千景の膝に顎を乗せて来る綾女に、千景は怒る気が失せる。
「――本当はね。ずっと言ってたら同じぐらい千景が好きになってくれるかなぁって思ったんだよ。」
不意に呟いた綾女の言葉に、千景は目を丸くする。
―――この女は、
「だからお前はバカだって言うんだ。」
「何よぉ!知ってるもん。」
そんな彼女を引き寄せれば、千景は不意にキスをした。
「――ち、かげ?」
こんな昼間から、彼がスキンシップを取って来る事はまずない。
綾女はその大きな目をしぱしぱとしばたかせた。
そんな様子を意地の悪い笑みを浮かべて見ていた千景はボソリと呟いた。
「いつ俺がお前より劣っていると言った?」
「どういう意味?」
「――分からんなら、その足りない頭で考えろ。」