第1章 貸し借り無し R18
「僕の、副司令の勲章を付けた小さな軍服を着れる人が君だけだったから。」
ん?今、小さな。って言わなかったか?オイ。
勲章。と言われビーネの着ている軍服の肩章へ視線を向けると、そこには俺が着ている軍服よりも一本線が多かった。
司令の勲章。
元司令の大きな軍服はきっとビーネの錬金術で小さくされたのだろう。
ただ、小さかったビーネの軍服を大きくするのは間に合わなかった。
だから、ビーネの軍服をそのまま着られるサイズの俺が…俺が…おれ…が…。
「これっきりだからなっ!」
「はいはい。」
一度もそでを通した事もない軍服を着せられ、ましてやこんな式典にも参加した事のない俺が、突然お偉方の列に並んで、緊張せずにいられるか!
視線が痛い!
「これから―――…」
は、始まった…。
きちっと並んだ軍人達のかぶる軍帽が箱に詰められた商品のように並んでいる。
たくさん並んだ軍帽の方に先ほど見かけたリザさんや東方司令部の人たちを見つけた。
「中央司令部、ロイ・マスタング大佐。」
司会の人の声が、知った名前を呼んでようやくこれが何の式典か気が付いた。
正式な名称は知らないが、勲章授与だ。
ここからだと、大佐の顔はよく見える。
って!
俺、なんちゅうとこに立ってんだよ!ここ、一部署のトップから二番目に立ってんだぞ!俺!
ようやく隣を見る余裕が出てきた。
隣に立っているガタイの良い軍人の胸に視線が向かった。
やはりその胸にはたくさんの勲章。
一生俺はもらえないような勲章がたくさんついている。
こ、この人も上から二番目っ!
「以上を持ちまして―――…」
終わる!早く終われ!俺場違いすぎる!
「エドワード、行くよ。」
「は、はい。」
退場はやはり中尉たちより先だ。視線が痛い!
他の偉い人に続いて退場する。
ビーネの背中を追って歩いて来て、気が付いた時には先ほどまでいた監査の副司令室、ビーネの部屋に戻ってきていた。
「お疲れさん。たすかったよ。」
「はぁぁー。」
適当に先ほどまで着ていた軍服の上着を、客人用のソファーにばさりと投げるビーネ。
今更気が付いたが、きちっとワイシャツを着て、ネクタイまで締めていた。
そんな仕草に視線を奪われていて気が付かなかったが、上着を脱いだ時、ひやっとする感覚が上半身を襲った。