第15章 想い
もう随分忘れていた感覚....
首にはまだあいつに差し込まれた牙の痕が残ってる
俺はまた一つ罪を犯した
けれど、あのままあいつを苦しませる事など俺にはできなかった
俺もまだまだだな....
どうしてもあいつの涙にだけは弱いらしい
あの夜もそうだった
本当は出会ってはいけなかったのに
手を掴んでしまった
月明かりに映るシンデレラのような姫に
心をも繋がれてしまったのかもしれないーーー
『ルキくん!』
「っ!!」
はっとするとすぐ目の前に見慣れたオッドアイの瞳が現れる
「コウ....なんだ?」
ルキが声を返すとコウは1歩後ろに下がり、ぶすっとした顔をする
よくみると周りにはユーマとアズサもいた
「なんだじゃないよ!
ぼーっとしてたけど....大丈夫?」
考え事をしているうちにみんなが集まってきたようだった
「あぁ。問題ない」
ルキは小さくため息をつく
全然大丈夫じゃなさそうなルキに3人は顔を見合わせる
隙なんて全く見せなかった彼がこうなった原因が何かは明白だった
「ルキ....やっぱり....レナさんを帰さない方が....良かったんじゃ....」
突然だった
先日、ルキの血の匂いがしてキッチンに向かうとレナを抱き上げたルキが
『こいつを居るべき場所へ返す』
と言って彼女を逆巻の家へ送り出したのは
理由は教えてくれなかった
けど、それからの彼の様子は明らかにおかしかった
「あいつは....元々逆巻に嫁ぐ為にあの屋敷に居たんだ
遅かれ早かれあの方はこうなさっただろう」
そう言うルキの表情は全く納得したようには見えなかった
「お前はそれで良かったのかよ」
「レナさんが居なくなってから....
ルキは凄く....寂しそうだ....」
「ッ....!!」
本心を見抜かれ、らしくもなく動揺した
また、兄弟達には気を使わせてしまって悪いなと思う
しかし、この想いを素直に告げる事は出来ない
だから、こんなにも苦しく、胸に穴が空いたように虚しいのだろう
こんなにもお互いが想いあっていても伝わることはない
まるで、そこに境界線があるみたいに
また彼等は自分の気持ちに蓋をする
『さよなら』
こんな言葉を届けたくはないのに