第8章 困惑
ーー大切な人を守りたい
そう言った彼女を見てルキは自身の心が揺らいだのが分かった
しかし、彼女は憎悪とゆうものを抱かないのだろうか....
あの家を出てきた理由はあの方に概ね教えて頂いた
普通の人ならば、利用される事に恐れ、相手を恨んでもおかしくはない
しかし、彼女は恐れる事はしても、裏切り、利用しようとする者を責めようとはしない
ましてや、その者達を"守りたい"なんて
正直、俺には理解できなかった
だが、そんなコイツを俺は否定しない
何故なら....ーーー
「ルキくん?」
はっとレナの顔を見ると、彼女はとても困惑した表情を浮かべていた
しかし、先程とは違い、少し心が落ち着いたようだった
「大丈夫か?」
他に言いたい事は色々とあるのだが、何故かコイツの前だと言葉が出ない
「うん。ルキくんのおかげ....ありがとう」
彼女は泣き腫れた顔で
偽りのない微笑みを浮かべる
その表情を見て、ルキはまた胸が苦しくなったのが分かった
「....お前は俺を疑わないのか?」
「えっ....」
思わぬ言葉にレナは驚く
「俺が何者かお前は何も知らないだろう…?
なのに、何故そんな顔を向けられる」
レナはルキの悲しげな眼差しに心を突かれた
「ルキくんは....私の命の恩人でしょ?」
そう....あの夜、月明かりに照らされ現れた漆黒の王子様....
それが、私とルキくんとの出会い....
「....それさえもお前を利用する為の罠だとしたら?」
ルキは彼女を試すような物言いをする
しかし、彼女は動じず
「....ルキくんはそんな事しない」
「何故言いきれる?」
ルキの言葉に私は目を閉じる
「不思議だけど....
ルキくんとはずっと昔に会ったことがある気がするから....」
「!」
ルキはかつて見た少女の姿を思い出す
「それに....あの方が貴方を認めているなら、私はそれを疑う理由がないよ」
「....ッ....」
人を信じるコイツの目は真っ直ぐだった
そして、俺はこの時心に決めた
もし、再び彼女が信じる者に裏切られたとしても俺だけは味方で居てやろう
『大切な人を守りたい』
この言葉はきっと本物だーーー