第28章 幸福
「まだ私のことをそう呼んでくれるのだな」
青年の姿で現れたのはカールハインツに殺されたはずの夜崎祥匙だった
だが、以前までの殺気や威圧感はなくなり、どこか悲しげな顔をしていた
「肉体が殺されてもしぶとく生きながらえてしまった…こんな若造の力を借りなければならないがな」
吸い込まれそうな瞳と目が合うとまたしても記憶が流れ込んできた
しかし、今度は少し違い
彼女の母、エレナとの思い出が次々と入ってくる
そして、祥匙の彼女に対する恨みや嫉妬、それ以上の愛情が記憶を通して伝わってきた
「お前にはこの気持ちを知っていてもらいたかった」
「!」
祥匙の言葉は心に直接語りかけるように響く
「一方的ではあれ、お前は私がこの世で最も愛した人と成した子だ
お前達を傷つけたこと、本当にすまなかった...」
父は後悔に溢れた表情で歯を食いしばっていた
彼は心の底からお母様を愛していた
しかし、どうやっても彼女の心は手に入らないと知り、絶望し、彼の歯車は狂ってしまった
お父様がしたことは許されない
けれど、その時の彼の気持ちを考えると胸がぐっと苦しくなった
「私はもうすぐ消滅する…だがきっとエレナの元には行けないだろう」
祥匙はレナの頬に手を添える
「最後にお前に会えて良かった」
1度でも父からこんなにも大切な物を見るような視線を受けたことがあっただろうか…
祥匙の体が覆われるように光が広がる
最後に、彼は呟いた
ーーーー愛している