第27章 懺悔
足音のする方に体を向け、私は彼の名を呼ぶ
しかし、いつもと違って彼は黙ったまま、彼女の目の前に立ち尽くしていた
「...っ...」
レナは不安そうな顔をして、車椅子を前に動かす
ルキの気配を感じられる、その場所まで進み
ゆっくりと彼の腕を引く
「!」
ルキは抵抗すること無く、足をおるようにして彼女の高さに視線を合わせた
二度と視線がぶつかることの無い、彼女の美しい瞳に見とれていると、温かい指が頬に触れた
「ルキ...泣いてるの...?」
「ッ!!」
無意識のうちに頬に涙が伝っている事に気づいた
自分でも、どうして涙が出ているのか分からない
けれど、彼女の優しい手に触れられると
ますます目が熱くなるのが分かった
「...悲しいの?それとも、苦しい...?」
彼女は俺の心を映したように悲しい顔をする
俺は必死に涙を止めようとするが、冷たい雫は彼女の指を流れるように湿らせた
ルキは縋るように、彼女を抱きしめる
「ルキ...」
ーーーーー俺は...レナにこんな顔をさせたいんじゃない...
ルキは耳元でとても辛そうに声を出す
「俺は...どうすればいいか分からないんだ...」
「!」
彼の口から初めて、本音がもれる
「不安なんだ...今の俺がお前を守ってやれるのか...
この喉に疼く渇きが、いつか、お前を殺してしまうんじゃないか...」
ルキは懺悔をするように、彼女に頭を下げ、自らの喉を抑える
喉が張り付くように熱く、心までも痛く感じた
ルキは顔を上げられなかった
彼女が今、どんな表情を浮かべているか...
そう思うとそれを目の当たりにする勇気は無かった
『ルキ』
名を呼ばれる声に、自分の心を掴まれているように反応してしまう
視線の先に見える彼女の手が、自分の顔を包み込み、視線が上を向く
「ッ...」
その時、ルキが見た彼女の表情は予想とは違っていて...
『ルキ...私の血を吸って』
ルキの目の前には、彼を優しく包み込み
天使のように微笑む
幼い頃から愛してやまない、彼女の笑顔があった