第25章 すれ違い
バンッ!!
逆巻家の一室から大きな音が響く
「くそっ...!!」
そこには壁に拳をぶつけるルキの姿がある
目の前に映るスーツ姿の自分を見て、イライラするようにネクタイを緩める
ーーー俺は、何をやってる...!!
あいつを、レナを守ると約束したのに...!!
ルキの握りしめた掌には爪がくい込み、血が滲んでいた
彼にとって、レナが記憶や視力を失ったのは受け入れ難い事だった
しかし、それでも彼は彼女の傍で支えていく決心はついていた
けれど...
「ぐっ...」
ルキは喉を抑え、倒れるように壁にもたれかかる
息も荒く、まるで何かに飢えているように冷や汗を流す
彼はあの夜会の日から1度も血を飲んでいなかった
「はぁ...はぁ...」
ーーそういえば...昔も同じような事があったな
喉に張り付くような渇きと共に、どうにもならない心の苦しみに俺は何とかして抗ってきた
誰の血を吸っても其の場しのぎにしかならず、この手でヴァンパイアを殺しても自分に対する嫌悪感しか感じられない
そんな時、支えとなったのは脳裏に映る彼女の優しい笑顔だった
(ふっ...皮肉だな...
俺はずっと1人の女に囚われていた
そして、今もその血と彼女の優しさに縛られている
俺も忘れてしまえれば、お互い傷つかずに済んだだろうに...)
ルキの視界が段々ぼやけていく中、夜会の日の事を思い出す
瀕死状態の自分を救ったのは、覚醒した血を持つレナだった
『この血で、私はまた貴方を傷つけてしまう...』
言葉通り、醜いヴァンパイアの本能によって、自分は執着という形で終わりのない苦しみを受けている
意識が遠のく...
(だが...
あいつに与えられた苦痛なら受け入れてもいい
そう思えるほどに俺はーーーーーー)