第25章 すれ違い
コツっ....コツっ....
整った調子で歩く足音が廊下に響く
その音を聞くと、レナの表情は和んだ
足音は私の部屋の前で止まり、少し間を置いて扉が開く音がする
「おかえりなさい。ルキ」
ルキが部屋に入ると、そこにはベッドに腰掛けるレナが居た
彼女は笑顔を向ける
「あぁ。ただいま、レナ」
ルキはスーツの上着を脱ぎ、レナの傍に座る
そして、壁に掛かる時計に目を向けた
「いつも遅くなってすまない
眠たかったら、先に寝てもいいんだぞ?」
ルキはレナの頭を撫でながら言う
「うんん。大丈夫だよ。
それに...少しでも、ルキと話していたいから」
レナは照れたように下を向く
「レナ...」
ルキは彼女に近づき、額にキスを落とす
目が見えない分、彼からキスを受けると、とても安心できた
ルキは、レナの様子を伺う
「....体は大丈夫か?」
声色から、すごく心配してくれている事が分かる
レナは視力を失ったと同時に、身体にも影響がみられた
その為、1日の殆どをベッドで過ごし、出歩く際も車椅子を使っている
「うん。特に痛いところとかはないんだけど...」
レナはそう言って脚を触る
「思うように身体が動かなくて...」
「ッ...」
これもまた記憶を失った時の後遺症である
しかし、彼女はその事を知らない
レナと色々な話をする中で、彼女があの夜会の日の事を覚えていない事は、はっきりした
人の名前や顔、あとは断片的な印象だけは覚えていた
だが、ルキはあまり記憶を思い出させるような話題は避けていた
特にあの日の事は衝撃が強過ぎる....
それに....
「ルキ?」
「っ....」
黙るルキにレナはどうしたの?と尋ねる
不安げな顔をするレナを、ルキは優しく抱きしめた
「お前には何一つ不自由はさせない....
行きたい所があれば、俺が抱きかかえてでも連れていってやる
だから、心配しなくていい」
ルキが囁く優しい言葉にレナは安心したように頷いた
そう、ルキは心から彼女を思いやり、彼女を愛している
だからこそ...彼は"再び"記憶を失った彼女に全てを打ち明けることが出来ないでいた