第1章 貴方って人は。
「……で、なんで赤葦はあんな事言ったんだ?」
「は!?」
突然の問いかけにひどく動揺する赤葦。その姿を見た木兎は、「まっさか嫉妬とか?」と冗談で言ってみたりする。
……多分、赤葦は自覚していた。
この気持ちが、《先輩に向ける尊敬》よりも、もっともっと強い想いであるということに。
そして、やっと気付けたけれど――今は本当に言うべき時ではないのだということに。
「こんなエースに俺が嫉妬するなんて、有り得ないですから」
「はぁ!?聞き捨てならんんん!!」
そしてにっこりと、優しく笑う。
木兎さんに言ったら、どう思うのだろう。
キスまで出来てしまったけれど、本当に俺の気持ちを伝えてしまったら――この人は離れてしまうのではないだろうか。
そんな不安が、赤葦の中で揺れ動いたけれど。
「……あ、そういや俺、ふつーに赤葦とちゅーしてたな」
唐突過ぎる木兎のそのセリフに、ブフッ。と赤葦は飲んでいた水を吹き出す。
――――そうなる日も、遠くはない。
「貴方って人は…」
そうつぶやき、赤葦は思う。
“俺は、木兎さんが好きだ”