それでも私は生きていく 【PSYCHO-PASS】
第2章 人民の自由は国家の強さに比例する
あぁまたか、と顔を歪ませる
仕事らしい仕事をすると必ず見る夢
幼い私の目の前に広がるのは7本のろうそくが立った白いケーキ
そしてケーキの向こうに歌いながら手を叩く、家族の姿があった
「お姉ちゃん、お誕生日おめでとう!」
「ほら、ろうそくを消して食べましょう」
心の底から喜ぶ弟と、切り分ける為の包丁を持って私が消すのを待つ優しそうな母
そしてその様子を映像として残す為にホロを動かすのは賢そうな父
これが私の家族だ
だけど私は知っている
このろうそくの火を消したら、アレがやってくる事を
でも夢の中の私はいつも逆らえない
「うん!」
笑顔で消せば、パチパチと3人からの拍手が私に降りかかる
幸せを噛みしめるような顔とは真逆に、これから起こる事に備えて脳は必死に落ち着かせようと働きかける
ドンッと荒々しい音と共に、点けたばかりの明かりが消える
「なにかしら…」
「様子を見てくるよ」
両親の不安そうな顔を見て不安をかき立てられる
やめて、見に行かないで
そっちに行かないで
行かないで、と叫ぶ前にうめき声と共に父が首から血を流して倒れた
その顔は目を見開いたままこちらを見ており、私達の方へ逃げようとしたのが伺える
父だったモノの前には知らない男、何があったかは一目瞭然だった
母は咄嗟に怖がる私達をリビングのクローゼットへ押しやり、男へと走っていく
男の赤い刃物に抗うように、包丁を持って応戦しているのがクローゼットの隙間から見えた
弟と震える体を抱き合いながら助けを求めると、母の攻撃が当たったらしく男が低く呻いた
しかしそれが不服だったのかその反撃で母は父と同じように倒れる事になってしまった
ガタガタと震える体を弟を抱きしめながら押さえつける事しかできない小さな体を恨む
あの時の私は、自分の体を案じる事で精一杯だった
だからこそ、母の元へと駆け出していく弟を止める事ができなかったのだ
母に辿り着く前に床に伏せる弟に声にならない悲鳴を手で押さえて必死に息を殺す
助けて、お姉ちゃん
そんな声が聞こえた気がしたが、命が惜しい私はまた動けず、クローゼットの隙間から血塗れのリビングを見るしかできなかった
その男の体がはじけ飛ぶまでは