第5章 華の唄
私があんな境遇に生まれたらどんなに楽だっただろう。
どうしたって戻れない。変えられない。
それだけで虚しくて、儚くて涙が出る。
「私が悪いの…?」
琥珀の涙を握り締める。
この剣と出会って変わってしまった。
ラーラを死へ誘うのはこの琥珀の涙。
おそらく翡翠の血も同じだろう。
アーシャも同じだったから。
それでも琥珀の涙と翡翠の血を手放せない。
「これを戻したら…生きたいって思えるのかな…?」
サボの言ったことは全て当てはまるし正しい。
だから怒りが沸いたのだ。
当てはまりすぎて恐怖から怒りに変えた。
「もう…どうしようもないのに。」
壁に寄りかかって座っている状態で窓を見た。
外から入ってくる月光に目を伏せた。
心を洗われそうで怖い。
この<死>を求める気持ちをなくしたら目的が果たせない。
リオ一族完全滅亡。
「月なんて…綺麗でもないのにどうして好かれるの?」
どうでもいい疑問に頭を悩ませる。
全ては虚しさを消し去るため。
どうしたって変えられない運命を忘れるため。
サボはラーラの部屋の前で立ち止まった。
今は一番俺には会いたくないだろう。
それでも放っておきたくない。
どうすればいいだろうか。
サボは思い切って扉を開けた。
「…」
「なんだ…寝てる。」
壁に寄りかかったまま剣を抱えて眠るラーラ。
サボはそっとラーラを抱き上げるとベッドに寝かせた。
ラーラの目から涙が零れた。
「泣いてたのか…?」
そっとそれを拭ってやるとサボは布団をかけて部屋を後にした。
サボは自室に戻っても眠れなかった。
ラーラのことが気になるのはただ仲間だからという感情だけじゃない。
特別な気持ちがあるのは分かる。
それは慈悲だろうか。
それとも同情か。
もしかするとこれは………恋?