第12章 >>10 我慢の限界な件
「おい。聞いてるのか?」
『ひょぁっ?!』
自分でも驚くほど間抜けな声が出た。
布団の上からつんつんと、指を刺される度、その間抜けな声は止まらず。
『もうやめてよ!』
思わず布団から顔を出して叫ぶと、目の前にその男が居た。
その男はぶっきらぼうで、感情を全く表に出さないようなそんな雰囲気。
「金融屋の牛島若利だ。うちの顧客情報を流した馬鹿を見つけて欲しい。」
牛島若利────
どこかでその名前を…。
《えー…やだ。若利君にお泊まりしてくるーって言ってきたし。》
覚さんの顔が声が、あの行為が頭の中を埋め尽くす。
『…っ帰って!!』
振り上げた手は、無意識に枕を掴み、若利さんに向けて投げ付けていた。
ぼふっという効果音と共に顔面に直撃した枕は、一瞬その場に止まりそのまま床に落ちた。
枕の後ろから現れた顔は相変わらず真顔。
「何だ、指は取られなかったんだな。」
思い出したくない事を、こうも的確に全て思い出させられるのはどういう天罰なのだろうか。
『仕事の依頼って言ってましたよね…僕は暫くお休みです…だから。』
「帰れって?そうも行かない。合鍵まで作ったんだから。」
何堂々と勝手に合鍵作ってんだこの人。
突っ込みたいが我慢我慢。
身体も心も見事にボロボロなのだから、1人にして欲しい。
「あいつはもう居ないぞ。回収で外周りだからな。」
声色は変わらない筈なのに、何故か優しく聞こえるその声。
例えるなら飴と鞭。
普段厳しい人が不意に見せる優しさ、そんな印象。