第20章 未来への扉
1本のワインをはさんで
二人でゆっくり過ごす。
このまま朝まで一緒にいられたら
どんなに幸せだろう、と思うけど、
明日は、二人とも仕事。
準備なんかしてきてないから、
今日は、
泊まるわけにはいかない。
12時にはここを出なくては。
…一分一秒が大事に思えた。
言っておきたいことは、
ちゃんと、言わないと。
『な、夏希、あのさ、』
…頷いてくれるだろうか?
それとも、怒るだろうか?
泣くか?悲しむか?
『なぁに?』
夏希の表情の変化を
見逃さないように、
顔を見つめて、言葉を続ける。
『…連絡とりあうの、
毎日にこだわらないことにしないか?』
今、ほとんど毎日
(ケンカ中は別だけど)
1日何回も写メやLINEをして
連絡が途絶えないようにしてきた。
…それは、前、自然消滅してしまった
あの経験で、懲りたから。
いつも気持ちがそばにあるって
確認してないと
また、いつの間にか
離れてしまうんではないか、と。
でも、
夏希に会わなかった間、
クロに言われた言葉を
ずっと考えてた。
『一人の時間を大切にして、
ちゃんと、喉を渇かせ。』
…連絡を取り合わないと
ダメになってしまうような、
そんな間柄ではない、と。
一緒にいない時間を
詮索しあうような…
信頼できないような間柄ではないと。
(主に、俺だけど。)
ちゃんと、
それぞれの世界をもった
一人と一人の大人として
つきあえるようになりたいと。
そう思ったから。
夏希が、微妙な顔で言う。
『…なんで、そう思ったの?』
『え?今日が楽しかったから。』
『それ、私が聞いてる質問に答えてない。
今日のもりすけ、
なんか、いつもと違いすぎる。』
『そうかな?』
『急に"ちゃんと"は止める、とか。
シャワーも浴びないでセックスするし…
毎日、連絡とろう、って言ってたの、
もりすけだったのに。
なんで急にそうなる?』
…あぁ、そういうことか。
『クロに、言われた。』
『何を?』
『正しさにこだわりすぎると
人を傷つける、って。
あと、一人の時間を大事にした方が
会えたとき、嬉しい、って。』
『…それは、クロの意見でしょ?
私、クロとつきあってるわけじゃない。
もりすけとつきあってるんだよ?』