第20章 未来への扉
紅葉は、見事だった。
湖沿いの遊歩道は落ち葉まで赤く、
空が見えないほど大きく繁った
紅葉の並木道は、360度の赤。
風が吹くと木の葉の赤は揺らいで、
まるで炎のトンネルが続いてるようだ。
その次に行った名刹は、
日本画のような
静かな趣のある赤。
『すっげーな…』という
感動の声まで囁き声になる程、
風格のある赤だった。
『この間より、いい?』
『今日の方が断然!
一緒に来れて、本当によかった。』
うん。
俺も、そう思う。
もし今日、
無理して休んででも来なければ、
この先、紅葉を見るたびに、
あのくだらないケンカのことを
思い返すことになってた。
ケンカの原因の紅葉狩りを
仲直りの想い出に上書きできたのは
偶然?
それともクロのことだから、
考え尽くした上でのことなのかも。
夏希が、同じバスツアーの
熟年夫婦を見て、そっと言った。
『…私たち、あんな風になれるかな?』
言葉は少ないのに、
おなじ歩幅、同じ距離感で歩く姿。
…結婚して、何年だろ?
ケンカとか、したことあるのかな?
『いや、夏希は、
あっちのタイプじゃねーの?』
遠くにいても響く笑い声の
中年女性グループ。
ご主人達は、仕事か、留守番か。
明るくてパワフルなお母さん達。
夏希も笑いながら答えた。
『そうかも~!
早瀬ちゃんとかとさ、
亭主ほっぽって、
女だけで楽しむのもいいなぁ。』
『どっちでもいいよ、
元気で俺のそばにいてくれれば。』
夏希が笑って、
俺と手を繋ごうとする。
『やめろよ、外で手を繋ぐとか、
恥ずかしいじゃん!』
『えーっ?恥ずかしくないよ、ほら。』
…俺達以外の二組のカップルは
手を繋いだり、腕を組んだりしている。
『俺、人前では、無理っ』
『…もうっ。いいじゃん、
知り合いとかいないんだし!』
『ほんっと、そーいうの、
恥ずかしいんだって!マジ、勘弁!』
俺の手を掴もうと
ピョンピョンと飛び回る夏希を
全力でかわしながら、思う。
ごめん、って言葉を使わなくても、
ちゃんと、その気持ちって伝わるんだな。
敢えてゴメンと言わせずに
終わらせるのも、優しさ。
これが、クロが言ってた
"ちょっと距離を置いたら
ちゃんとうまくいく"って
ことなんだろうか。