第20章 未来への扉
バスは、ほぼ満席。
見渡した感じだと、一番多いのは、
中年女性のグループ。
次が熟年夫婦。
若いカップルは、俺たちを入れて
三組ほど。
全員が席につき、
簡単なパンフレットを配られて、
バスは出発した。
『俺、バスツアー、初めてだ。』
『私も。なんか、遠足みたい。』
食べる?と夏希が差し出した
チョコポッキーをくわえながら、
ホントに遠足みたいだな、と思う。
『…な、覚えてるか?高2の登山遠足。』
『あーっ、今、思い出した!
お弁当食べるとき、一瞬目を離したら
カラスがもりすけのから揚げを
もっていっちゃったよね!』
『そうそう。すっげーショックでさ。
あん時から、カラス、苦手(笑)』
…本当は、
"会ったらまず謝ろう"って思ってたけど。
でも、わざわざそれを蒸し返さなくても…
ごめん、とかすっ飛ばして、
今はとりあえず、楽しさ優先で
いいのかな、って気分でいる。
"恋愛を楽しめ"
"正しさだけじゃ人を傷つける"
…って言ってたクロの言葉は、
こういうこと、なのかな…
実際、バスの移動中にうつらうつらと
眠りかける夏希に肩を貸し、
トイレ休憩で立ち寄ったSAで
ご当地ソフトクリームを1つだけ買って
二人で食べて…そんなことをしていると、
なんであんな
つまんない嫉妬したんだろ、って
自分でもバカバカしくなってきて。
眠ったり笑ったりする夏希の顔を
見てるうちに、
"家族"より、今はまず
"彼女"を幸せにしたい、って
思ったんだ。
遠い未来の結婚より、
今、ここにある笑顔。