第20章 未来への扉
…翌日、気分は最悪だった。
二日酔いと昨日の出来事のせいだ。
自販機に水を買いに行った時に
すれ違った早瀬が
小さな声で話しかけてくる。
『珍しいね、二日酔い。
…夏希ちゃんと何かあった?』
『…なんでだよ?』
『おかしいことだらけじゃん。
自分のお客様の挙式の時に
二日酔いで来ることなんか
今まで、一回もなかったし、それに、』
『なんだよ?』
『今日、全然、スマホ見ないし。』
…そう。
紅葉狩りに行った夏希から
楽しそうな写メとか送ってこられるのが
イヤなんだ。
忙しくてスマホ見る暇もない、って
思わせときたい。
気にしてる、って思われたくない。
…別に、連絡、待ってるなんてこと、
全然、ねーし。
『ほっといてくれ。』
『あ、そぅですか。』
…バカ。
こんな時こそ、根掘り葉掘り聞けよ。
俺は悪くない、って
仕事仲間の早瀬なら言ってくれると
思ったのに。
こんな時に、すぐ引っ込むな!
通りすぎていった早瀬の背中に
心のなかで暴言を吐いてみた。
…八つ当たりだってわかってるけど。
仕事は、もちろんちゃんとやる。
今日の新郎新婦を笑顔で見送って…
夕方、初めて、スマホを見た。
…夏希からのLINE。
昼前から、何回かにわけて
送られてきてる写真は、景色だけ。
夏希の笑顔も、
クロや海君や、他のメンバーの顔も
全然、ない。
気を使ってるつもりだろうか。
写真に添えられたメッセージも、短い。
"いいお天気。紅葉は、まぁまぁ。"
"お昼は、みんなでうどん。"
"一緒に見に来られるといいね。"
"仕事、頑張って。"
…多分、みんなで記念撮影とかしたはず。
それを敢えて送ってこないのは、
優しさ、なんだろうけどさ。
楽しい写真を送られてくるのがイヤなのに、
それが一切ないってのも…
遠慮されてるみたいでイライラする。
俺の知らないところで、
笑顔、弾けさせてんだろうか。
今夜、会う約束してるけど、
俺、大丈夫かな。
どう考えても、
楽しく報告してくれるとは思えないし、
どう考えても、
笑顔で会える気がしない。
…俺、今、自己嫌悪、MAX。
どうしていいか、
ホントにわかんねぇ。