第20章 未来への扉
『先にシャワー、浴びてこいよ。』
『うん。』
『…気持ちも、さっぱり洗い流してこいよな。』
『ありがと。』
バスルームへ消えていく夏希。
中からザーっという音が聞こえる。
長く、長く。
もしかしたら、
もしかしたらだけど、
泣いてるのかもしれない。
仮にも結婚を考えていた男と別れた直後だ。
いくら気持ちは冷めた、と言っても
思い出すことはたくさんあるだろう。
…複雑だな。
彼氏と別れた直後の女を抱く、って。
優しくするべきかな?
それとも、
前の男を思い浮かべる余裕もないくらい、
激しくした方がいいのか?
どんな思いで俺に抱かれようとしてるのか…
夏希の気持ちは、さっぱりわからない。
俺は?
俺の気持ちは?
性欲や
独占欲で
抱くつもりじゃねーだろな、俺。
ん?
抱く理由って、
それ以外にあるか?
あぁ、
愛情、か。
そうだ、
今日から、
俺の彼女だ。
欲じゃなくて、
愛で、抱かなきゃ。
…頭が混乱してるな…
気持ちはまとまらないまま、
バスルームの扉が開いた気配。
ドライヤーの音。
…髪も洗ったのか。
何もかも洗い流して。
勢いとか、ついでじゃなく、
全部、俺のために整えてくれてる、
と、思いたい。
しばらくして、
バスローブを着た夏希が出てきた。
『ごめん、
もう、本当に全部、そのままを見てほしくて。
化粧も落とした。』
…化粧をしてた時より
薄くなった目元や、
そのままの唇の色。
むしろ、おれにとっては
こっちの夏希の方が馴染み深い。
『まだ制服でもいけそうだな。』
『さすがにムリでしょ。』
…笑う。二人で。
少しだけ、緊張が解けた。