第20章 未来への扉
夏希と再会して
2ヶ月ほどたった頃だっただろうか。
『お先に失礼しま~す。』
先に職場を出た早瀬から
10分もしないうちに電話があった。
『あ、夜久君、』
『なんだよ?』
『駅に、夏希ちゃんが来てる。』
『え?』
『夜久君に直接、
伝えたいことがあるんだって。
仕事が終わるまでここで待ってる、
って言ってるけど…どうする?』
『どう?どうするって…』
机の上には、開いたパソコン。
四角の中に並んだ数字は、見積り。
明日の朝イチの接客で使うから、
今夜中に仕上げておかないと…
と思っているのに、
口から出た言葉は
『すぐ、行く。』
だった。
『…あたし、
いない方がよさそうだから先に帰るよ?
駅前のスタガにいるように伝えるから。』
『…急いでいく。』
切れた電話を握りしめて
一瞬、頭が真っ白になる。
直接、伝えたいこと、って。
いいこと?
悪いこと?
とにかく
行かないと。
引き出しの一番上を開けて、
机の上のものを、
ガーッと全部押し込んだ。
生まれて初めてだぞ、
こんな雑な片付けしたの。
パソコンの電源が切れるまでが
とてつもなく長く感じた。
そして、
普通の顔で挨拶すると
事務所のドアを閉めて、
全速力で走りだす。
上着も鞄も、邪魔だ。
…捨ててくわけにはいかねーけど。
いつもだったらスマホをいじりながら
景色も見ないでダラダラ歩く駅までの道を
全速力で走った。
ちょうど、秋の始まり。
涼しい夜風が、
俺の周囲だけ冷たく感じる。
空気を吸い込みすぎて、むせた。
変な、汗…
駅前のスタガ。
通りから見えるところに
夏希が一人で座ってる。
ぼんやりと。
表情が、ない。
一番、イヤだ。
笑い顔でも、
泣き顔でも、
怒り顔でも、
呆れ顔でもいい。
早く、
夏希の表情を、取り戻したい。
何を考えてるのか
わからないのが
一番、イヤだ。
…シャツの乱れをサッとなおし、
頬をパンパンと叩いて、
1回、深呼吸。
まずは自分の気持ちを立て直して、
店に足を踏み入れた。