第18章 誓いの言葉
京治さんが、苦笑いしながら返事する。
『お陰さまで、というか、
申し訳ありませんが、というか…
昨日、プロポーズしました。
いろいろ落ち着いたら、結婚するつもりです。』
『ほぅ、それはそれは。
残念、といってほしいか?
おめでとう、といってほしいか?』
『どっちでもいいです。
社長の意見で変わることは何もないですから。』
『相変わらず、お前はおもしろい。
で?この先、どうするつもりだ?』
『…前も言った通り、
赤葦建設の迷惑になるようでしたら、
いつでも会社、辞めます。
俺の存在が邪魔なら、
今後、俺は赤葦の名前を使わないですし、
財産分与も放棄しますから、
赤葦の家の人間でなくしてください。
牛島組になんと言われようと、
俺は、小春と、結婚します。』
『ふざけるな!』
社長が、大きな声で言う。
『迷惑になるなら、とはどういうことだ?
私が引き留めるとでも思ってるのか?
辞めるかどうかはお前が決めろ。
お前一人が残ろうが辞めようが、
大したことじゃない。
その先のことは私がどうとでもやりくりする。
よそとの事など気にせず、
自分で決めんか、バカモノ!
…しかし、お前の個人的な都合で、
現場や現地の人間に、
迷惑をかけるような決断は許さん。』
『…』
『赤葦の名前を使わない、というのも、
お前はそうやって簡単に言うが、
どこに行こうがどんな名前になろうが
お前がうちの息子であると言う
事実に変わりはないんだぞ。
私に言わせれば、
お前の言うことは“逃げ”でしかないな。
ここを辞めるとして
どんな仕事をするつもりか知らんが、
赤葦の名前に恥じないように
生きていく覚悟がなければ
何をやっても大成せんわ。
財産分与のことなど、
お前が口を出すのは100年、早い!』
『…社長…』
『何より、お前は結婚するつもりだろ?
家族を養う志も固まっていないのに、
勢いだけでプロポーズするな。
カッコばっかりつけやがって。
お前はまだ、
自分以外の誰かの人生を背負うには
覚悟が足りん。』
『…社長、』
『言いたいことがあるなら言いなさい。
今日は仕事じゃないからな。
社長としてでも、
…出来損ないだが親父としても、
話は聞く。』
息苦しくなるほど
たっぷりとした空白の時間のあと、
京治さんが、口を開いた。