第18章 誓いの言葉
その瞬間は、
周囲の全ての景色が止まっていた。
ここは空港、とか
人前だから、とか
そんなことは全く気にならず、
ただ、向こうにいる京治さんだけが
色づき、
動き、
光って見えた。
行かなきゃ。
会えたんだもん、
行かなきゃ。
走りだそうとした私を
強い力が
後ろから引っ張る。
『…ダメだ、小春ちゃん。』
『やめとけ。』
…木葉さん、木兎さん…
『なんで?なんでダメ?!
そこに、そこに、いるの、
あれ、間違いなく京治さんなの!!』
『仕事の相手が一緒だ。
今は、小春ちゃんのあかーしじゃねぇ。
赤葦建設の…牛島組の、赤葦京治だ。』
『でもっ!』
『今朝のあかーし、覚えてるだろ?
あいつだって、離れたくねーんだよ。
だから、見送るなって言ったんだ。
…あかーしのつけたケジメ、
わかってやって。』
『…』
わかってる。
木兎さんが言うことも
木葉さんが言うことも
わかってる。
わかってるのに…
体が、心が、
言うことを聞かない。
『…っ、けいじ、さんっっっ!!』
到底届かないだろうけど、
叫ばずにはいられなかった。
もう、きっと、これから何年も…
もしかしたら一生
呼ぶことがないかもしれない
大事な人の名前。
…一瞬、
こっちを見てくれた気がする。
木兎さんが私を
抱え込んで引き止め、
木葉さんが京治さんに、
『行け』と手で合図を送り、
木兎さんの奥さんと
エリさんは泣いていて、
私は、申し訳ない、と思いながら
木兎さんの腕の中に
泣き崩れた。
笑顔で見送ろうと思ったのに
やっぱり、泣いてしまった。
…泣き顔は、京治さんからは
見えてないことを祈るけど…
木兎さんは、
私をギューギューに抱き締めてくれた。
お父さん、みたいに大きな体。
京治さんの静かな優しさとは違う、
おおらかな温もり。
京治さんの爽やかな香りとは違う、
色っぽくて、華やかな香り。
木兎さんと京治さんは
全然違うタイプだからぴったりなんだな、
…と思ったことを、覚えてる。
そして、
私はこれから、出会う男の人をみんな
京治さんと比べてしまうのだろう、
と思ったことも。