第18章 誓いの言葉
ドアをノックする音が聞こえる。
『…あかーし、起きてっか?
もうすぐ5時だぞ。タクシー来んだろ?』
『…起きてます。
すんません、あと少しだけ…
もうちょっとしたら、行きます。』
『わかったよ。』
抱き締める手に力が入る。
『京治さん…行かなきゃね。』
『ん。だけど、あとちょっとだけ。』
涼やかな香り。
温かな体温。
逞しい体と
気持ちいい肌。
抱き締める。
…一番、愛した人の、全部。
…コンコン…
『邪魔してごめんね、
タクシー来たみたいだよ。』
『あ、はい、わかりま…『エリさん、
すんません、あと1分、
あと1分だけ。そしたら行きます。』
~ドアのそと。
木葉と、エリと、木兎妻。
『…たまんねーな。
あかーしがこんなわがまま言うの、初めてだ。』
『…ね、秋紀、車かして。
あたし、飲んでないから、
あたしがホテルまで送るわ。
そしたら小春ちゃんものせてけるから
あと1時間くらい一緒にいれるでしょ。』
『…エリちゃん、そうしてあげて。
あたし、タクシー帰してくる。』
『だな。俺も、ついてく。
…ちゃんと見届けねーと。』~
~部屋の中の二人。
『…京治さん、もう、行かなきゃ。』
『…うん。』
『今日、会えて、よかった。』
『小春、ごめんな。』
『…そんな言葉で終わらないで。』
『…』
『ね、そんな寂しい言葉で終わらないで。
決めたよね、ごめん、って、言わないって。』
『…小春、』
肩にまわされる腕。
ゆっくりと力がこもる。
触れている私の体を
確かめるように。
そして、
鼓膜を震わす
あの言葉。
京治さんの口からこぼれる、
ごめん、のかわりの言葉。
大好きな言葉だけど、
今は、切なく響く言葉。
『愛してる。
愛してる。
愛してる。
…ありがとう。』
泣かない。
まだ、京治さんは、ここにいるから。
笑顔は無理でも、
泣き顔は、ダメ。
見送りは、気持ちよく。
一粒の後悔も残さないように。
京治さんが、
ここに、心を残さないように。
何もしてあげられなかった私が
たったひとつ、
出来ることだと思うから。