第18章 誓いの言葉
言葉が、出ない。
二人で手を繋いで、
慣れた廊下を歩く。
あの部屋。
初めて抱かれた
あの部屋。
ここで始まって、
ここで、終わる。
カチャン、とドアが閉まった。
『…小春、新しい生活は、どう?』
『…うん、頑張ってます。』
『俺も。』
『京治さん、』
『ん?』
『…会いたかったぁ…』
よかった。
出来た。
笑顔。
泣かない、絶対。
安心して旅立ってほしいから。
覚えててほしいのは、
泣き顔じゃなくて
笑顔。
『…言っていい?
俺も、会いたくて会いたくて仕方なかった。』
京治さんも、笑ってくれる。
クールだけど、甘い笑顔。
この顔、大好き。
どちらからともなく
抱き合う。
力を込めると
同じように
力を込めてくれる。
京治さんの逞しい体で
私の小さな体なんか
潰してくれたらいいのに。
心ごと、
体ごと、
粉々にして
どこへでも
連れていってよ…
『…あと3時間、どうやって過ごそうか?』
『…キス。』
ん。いいよ。
おいで、小春。
京治さんの唇からこぼれる
言葉の一つ一つを忘れたくなくて、
全部、頭のなかで繰り返す。
"ん。いいよ。
おいで、小春。"
顔を見合わせて、
優しい、優しい、キス。
わかる。
激しくされたら、
別れの切なさが襲ってくる。
きっと、京治さんも
同じ気持ちなんだと思う。
心を溢れさせてしまわないように。
大事なものを壊さないように。
なみなみの優しさを感じながら。
そっと、そっと。
『京治さん。』
ソファのはしっこに座る。
『ね、膝枕、させて。
最初に会った時みたいに。』
全部、覚えてたいから。
『ん…俺の一番好きな枕、ね。』
私の膝の上。
京治さんの髪を撫でる。
『あぁ…ここから始まったね、
この膝枕で俺がグッスリ眠った日。』
『ナンパから助けてくれて。』
『兄さんに感謝しなくちゃ。
おかげで、小春に出会えた。
…俺がいなくなっても、
木兎さんに膝枕したりすんなよ。』
『うん。京治さん専用…』
『…いや、違うか。
木兎さんと木葉さんにはダメだけど、
他にいい男がいたら、していいよ。
俺よりも小春を幸せにできる男だったらね。
…俺、全然幸せにしてやれてないけど。』
…やめて。
返事が、出来ない。