第18章 誓いの言葉
椅子が、全部、埋まる。
ワインが一本、あいた。
京治さんが、
いつもみたいに
木兎さんに突っ込んで、
その指はずっと私の
肩や髪やひざや腕に触れていて、
みんなそれぞれ
パートナーがいる
おさまりのいい形になる。
あっという間に
いつもの6人になり、
そして、
あっという間に
時間が過ぎる。
『あかーし、何時までいれるの?』
『あと、3時間。
5時にタクシー呼んでます。』
…あと、3時間。
『明日の出発は?』
『…14時半のマレーシア航空です。
でも、牛島組の人間も一緒に出発するので…
見送りとか、来なくて大丈夫ですから。』
…見送り、出来ないのか。
パッと楽しかった
ひとときの後に訪れる
考えたくない現実。
あと3時間後、
さよならの時が、やってくる。
『よし、みんな、
もう2時だし、寝ようぜ。
俺ら、ここに雑魚寝でいいだろ?
エリ、女子はマットレス使えよ。
俺と木兎は、そこらでいいわ。
…あかーしと小春ちゃんは、寝室。』
『いや、俺らもここで…』
『いいから、行けって!
別に、抱けって言ってるわけじゃねーの。
膝枕でも内緒話でもキスでもハグでも
仮眠とるだけでもなんでもいいから、
とにかく、二人で過ごせって。
…あかーしのためじゃねーよ。
小春ちゃんのためだから。先輩命令!』
『ここ、電気消すよ、はいはい、
お二人さんはあっち行って下さ~い』
『行こうか、小春。』
…優しい声で名前を呼んでくれる。
それだけで、
心が震える。
この声で
名前を呼んでもらえる幸せが
もうすぐ、終わる。
覚えておきたい。この声。
"行こうか、小春。"
…忘れない。
京治さんが、私の手を取る。
王子様みたいに。
もうすぐいなくなる王子様が
夢みたいにキレイな静かな笑顔で
私の手を握ってる。
大きくて
あったかい、手。
もうすぐ、
この手が離れていく。
夢なら、覚めないで…お願い…
時間、止まって…お願い…
このまま一緒に
どこにでも、
連れて行って…お願い…
誰に頼めば、
この物語は
ハッピーエンドに
してもらえますか?
誰でもいい、
誰でもいいから、
お願い、
お願い、
京治さんを
連れていかないで!!