第18章 誓いの言葉
夜、旅先から東京に戻って、
翌日の朝。
丁寧にアイロンをかけた
ブラウスに袖をとおし、
新しいストッキングを出して
履きなれたパンプスを磨き、
会社に向かった。
青空にそびえ立つ"赤葦建設"。
社員が次々と吸い込まれていく。
みんな、ここで働いて、暮らしている。
私も、その一人、だった。
いろんな仕事をさせてもらって
いろんな人に出会わせてもらった。
『おはよう、お待たせ。』
…ここで出会った、一番大切な人。
今日も、パリッとした三つ揃いが
よく似合ってる。
『行こうか。』
二人並んで
正面玄関から足を踏み入れると
周囲にいた人たちが、
ざわめいた気がした。
"噂の二人"が並んで歩く姿に
みんなが驚いてる。
何とでも言って。
私達は、自分達が決めた道を
歩くって決めたから。
噂話も誹謗中傷も、
今までは聞かないふりをしてきたけど、
私達はもう、そこから一歩先に行く。
最上階の社長室に続くエレベーターに
乗り込んだのは、私たちだけだった。
エレベーターのドアが閉まると、
小さく、息をつく。
『ここまでが遠く感じたぁ…』
『小春、堂々としてたよ。』
でも、まだ、何も始まってない。
ここからが、私達の本当のスタートなんだから、
『ここでくじけてるわけにはいかないし。』
…深呼吸しながら自分の心に気合を入れていると、
あっという間に最上階に到着する。
以前、
社長室に呼ばれたときは
私一人だった。
でも、今日は京治さんがいる。
もうすぐ、
一人と一人になる私達。
でも、
今は、まだ、二人だから。
『行こうか。』
京治さんの声で、一歩、踏み出す。
廊下の、奥。
『おはようございます。』
京治さんが
軽く声をかけると
秘書室の人が
一斉に立ち上がって頭を下げた。
…やっぱり、京治さん、すごい。
そのまま立ち止まりもせず、
なれた手つきで
社長室をノックする。
『おはようございます、京治です。』
中から聞こえる声は、
朝からよく響く。
『はいれ。』
…京治さんの大きな手が
私の頭を
軽くポンポン、と撫でる。
"大丈夫。"と言うように。
そして、
京治さんが
社長室のドアをあけた。
私も、
京治さんの後ろに、続く。