第18章 誓いの言葉
誰も、何も、言わない。
…それは、
私に気を遣ってくれてるから。
だから、私から、話す。
『立場は複雑だろうけど、
京治さんがずっと手掛けてきた仕事に
結局、ちゃんと関われるんだったら
私は、ホッとしてます。
…私のために何かを諦めるなんて、
そんなの、私がイヤだし。』
『…小春…』
『京治さん、出発は、いつ?』
『…二ヶ月後。』
『え?あかーし、
それ、いくらなんでも早すぎじゃね?』
『現場が動き出す前に必要な段取りとか
現地の調整の為の、先のり組って名目で。
…多分、ホントは早く、俺をここから
引き離したいんだと思うけど。』
『小春ちゃん、どうするの?』
『…どうって…
私が決められることは何もないから、
いってらっしゃい、って言うだけです。』
『…小春、頼みがある。』
『なに?』
『俺を、待たないでほしい。』
………
『あかーし?』
『それ、どういうことだ?』
『俺が帰るのを、待たないでほしい。
もし俺がいない間に
気になるヤツが出来たり、
誰かに口説かれたりしたら、
俺より、そっちを優先して。』
…木兎さんが、声を荒げた。
『お前、何、カッコつけてんだよ!
“必ず迎えに来るから待ってろ”って
言うとこだろ!』
『…だって、もしかしたら…
いや、ほぼ間違いなく、3年ですよ?
3年も会えないのに待ってろ、なんて
木兎さん、大事な人に言えます?
3年も一人ぼっちでいろって、言えますか?
その間
何もしてやれないんですよ?
一緒に喜ぶことも笑うことも、
ケンカも誕生祝いも、
デートも送り迎えも
キスも…抱き締めることも…
何ひとつ…
それなのに一人で待ってろって、
大事な人に言えます?
ね、木葉さん、言えます?』
京治さんのこんな大声、初めて聞いた。
…震える、声。
エリさんの顔を見つめた木葉さんが
ポツリと言う。
『…言えねぇ、な。
大事な人にほど、言えねぇな。』
木兎さんは
殴りかかりそうな勢いで。
『バカあかーし!
そんでも、待ってろって言えよ!
じゃねーと、小春ちゃん、
返事のしようがねーだろがっ!!』
奥さんが、
木兎さんの腕をつかんでる。
そうでもしないと、
ホントに殴りかかってきそう。
…誰も、間違ってない。
みんな、優しい人。