第18章 誓いの言葉
その頃。
『社長、いろいろと期待してもらって
チャンスも頂いてたのに…申し訳ありません。』
青空がむなしいほど遠くまで広がり、
模型のような都心の風景を見下ろすここは、
赤葦建設の社長室。
『今ごろ業者や派閥の間じゃ
ちょっとした騒ぎだろうな。
小春君には伝えてあるのか?』
『いえ。』
『じゃぁ、びっくりして今ごろ、
お前の電話は着信の山か。』
『連絡先、教えてませんから。』
『ほう、随分、慎重だな。』
『俺の通話やメールの内容なんて
社長が調べようと思えば簡単でしょう?
小春に迷惑はかけられない。』
『どうやって連絡とりあってる?』
『…糸電話。』
ハハハ、と、低く、よく響く声。
『…まぁ、いい。
しかしお前、本当に辞めるつもりか?
やっと政府開発援助の話が
まとまりかけてるのに。』
『牛島組との共同事業になるなら、
縁談を断った俺が、赤葦建設のメンバーで
そこに参加するのは失礼でしょう。
俺を辞めさせることで義理を通して、
事業を成功させてください。』
『…お前、うちを辞めてどうする?』
『これから考えます。』
『…とりあえず、この退職願いは私が預かる。
明日、お前、私につきあえ。』
『どこへ?』
『牛島組だ。』
『…頭下げに行け、ってことですね?』
『ま、どうなるかわからんが、
とりあえず、直接、詫びんとな。』
『俺、一人で行きます。』
『私も行く。』
『…社長として?父として?』
『両方、だろな。』
『ご迷惑おかけして、すみません。』
『そんなに好き、か。』
『…はい。』
『家族より、会社より?』
『俺にとっちゃ、小春や仲間の方が
家族みたいなもんですから。』
『手厳しい言葉だ(笑)』
『会社は、俺がいなくても
兄さんがいれば大丈夫でしょう。
…小春に、代わりはいない。』
『若いなぁ。』
『ガキですよ、まだ。
ガキだから、こんなムチャ出来るんです。』
『なんだ、自分でわかってるのか(笑)』
『最初に会社のために縁談で結婚して
その後、家族に迷惑かけた父親の姿を
見てきましたからね。』
『…耳の痛い話だ。だけど京治、』
『なんですか?』
『お前の母さんは、ホントにいい女だったぞ。』
『…母親を誉められるのは嬉しいです。でも、』