第18章 誓いの言葉
『人にはそれぞれもって生まれた才能がある。
うちの長男は、確かに実務や数字に強い。
だけど、それはトップというより
裏方でこそ活かされる力だと私は思うんだ。
そして京治には、
努力では手にはいらない才能がある。』
『…』
『カリスマ性だ。
人の適正を見抜き、うまく動かす。
多くを語らずとも人を惹き付ける力も。
それこそ、同じカリスマ性でも
コータローとは正反対のタイプだな。
しかも、だ。
どんな才能も
それを発揮できる場所がなければ、
その才能は、埋もれてしまう。
京治は、赤葦家に生まれた。
才能を発揮する場所が、あるんだよ。』
…何もかも納得いきすぎて、反論のしようがない。
『そういえば君は、
京治がやりたいと思っている仕事を
知ってるかね?』
『…知りません…』
『今度会ったら聞いてみるといい。
それをやるためには、
京治にとっても赤葦建設の力が必要だ。』
…さすが、父であり社長だ。
私なんかじゃ太刀打ちできない。
『せっかく両想いの二人に大変申し訳ないが…』
…あ。イヤな展開…
『京治のことを思うなら、
早いうちに別れてくれないか?
もしそうしてくれるなら、
私が、君の縁談も探してあげよう。
…好き嫌いは、一時の熱病だよ。
長い目で見れば、
愛情より長持ちするものを選んだ方が
幸せになれる。』
『…それは、出来ません。』
『なぜ?』
『…京治さんと、約束したからです。』
『京治の後ろには、何千人の社員と
その家族の生活がかかっている。
それを君はわかっているか?』
『…』
『誤解しないでほしい。
私は、君が嫌いじゃない。
ただ、経営者としては
君が京治の前にいるのは、困る。
私には、
会社と社員を守ることが何より大事な仕事だ。
そこを、理解してくれ。』
『…』
何も、言い返せない。
『君が自分で
京治の前から身を引いてくれるのが
一番いいんだがね、』
…
『そうはいかん、というなら、
君には少々、辛いことがあるかもしれん。
会社とは、そういうところだ。』
…
『しかし、もし、』
…冷たい声のなかに、
『もし、君達が本当に想いあっているなら、
乗り越えて見せてほしい、とも思うよ。』
…ほんの少しの、親心。
苦しい、苦しい、心の声。
みんな、苦しんでる。
京治さんも、社長…お父さん、も。