第18章 誓いの言葉
極力、今までと変わらない毎日を
過ごそうと努力している。
受付前を京治さんが通っても
目を会わせないようにしているし
職場での噂話にも、今まで通り
頷くだけのスタンスを崩さない。
連絡も、直接とらないようにしてるし
会うのも、いつも"木葉さんの隠れ家"。
使う出入り口も、タイミングも別々。
…もちろん、逃げ回っていても
事態が好転することはない。
『小春が巻き込まれる前に
解決できるのが一番だから。』
そう言って
後継者問題について、
京治さんの意思は変わらないと
伝え続けてくれているようだけど、
なんといっても、
関わっている人の数が多すぎる。
『はい、そうですか。』
となることは有り得ないわけで…
ある日。
『おはようございます。』
朝、普段通りに出勤すると、
受付の先輩たちが、不審そうな
怪訝そうな顔で話しかけてきた。
『小春ちゃん、何か、やらかした?』
え?
『社長が、お呼びだそうよ。』
…京治さんのこと以外、有り得ない。
何を言われるのだろう。
どこまで知られてるんだろう。
シラを切り通すべき?
それとも、
認めて、別れないと宣言するべき?
…入社して五年。
初めて呼ばれた社長室に、一人で向かう。
途中、
日頃、口をきくこともない人と
たくさん、すれ違う。
この人は…どの派閥の人なんだろうか。
そう思うと、
社員一人一人のことが気になり始める。
敵か?味方か?
いや、社内に味方は、いない。
京治さんに継いで欲しい人にとっては
私が邪魔物。
長男に継いで欲しい人にとっては
私達二人とも邪魔物。
…京治さんの置かれた立場の厳しさを
改めて、思い知る。
ここまでして、
私を選ぼうとしてくれる京治さんを
私は、信じる。絶対に。
秘書室の男性に声をかけると、
すぐに社長室へ通された。
…都心のビル群が眼下に広がる
明るくて、広い部屋。
大きなデスクの前にいるのが…
京治さんの、お父さん。
…赤葦建設3000人のトップに立つ、社長。
面と向かい合うと、
重厚なオーラを放つ、
迫力と存在感のある人だ。
足が、すくむ。
一対一。
何を、言われるのだろう…。