第18章 誓いの言葉
『また会ってほしい。』
そう言ったのは京治さんだったのに、
それからはプッツリと連絡が途絶えた。
会社では、姿を見かける。
いつもと変わらず、三つ揃いのスーツに
忙しそうな様子…だけど
少し、疲れてるように見えるのは
気のせいだろうか。
私とチラリとも目をあわせないのは、
忙しいから?
気を遣って?
それとも…
それほど気にしてないから?
どんなに気になっても
こっちから声をかけることは出来ない。
『あいつと付き合うって、大変よ。』
木葉さんが言っていたのは、
こういうことなのかな…
自分が、
どんなに場違いな世界に
足を踏み入れようとしているのかを
少しだけ、知る。
そして
自分ではどうすることも出来ない想いの
さらに大きな背景に気づいたのは、
社員食堂で耳にした、噂話だった。
『…聞いたか?』
『あれだろ?三男。』
『社長と揉めてるってやつ?』
『牛島組の娘との縁談、断ったってな。』
『これで、次期社長レースは
長男が一歩、リードってことか。』
『三男派は、焦ってるらしいぞ。』
『今時、政略結婚もなぁ。』
『そうか?
俺は、赤葦建設の社長になれるなら、
どんな女とでも結婚するけどな。』
『俺は、そういうの、めんどくせぇ。』
『でも京治さん、まだ若いしさ、
あんだけいい男だからなぁ。
ホントは、惚れた女がいるんじゃねーの?』
『バカ、そんなこと大きな声で言うんじゃねーよ。
お互いの隙を狙ってる派閥のヤツラが聞いたら
それこそオオゴトだって。』
…女子社員の噂話どころじゃない。
会社の将来を賭けた、人事に関わる話。
京治さん、私、そこにかかわってるの?
それとも、私とは違う誰かのこと?
受付から見える風景からは
何もわからなくて…
京治さん、ちゃんと眠れてる?
それだけでも、教えて…