第18章 誓いの言葉
翌日からは、
また普通の毎日が始まる。
今日も、彼…京治さんは、いつものように
仕立てのいい三つ揃いを着こなし、
社員に囲まれ、電話をかけながら、
受付の前を通りすぎていった。
夕べの、天使のような寝顔とは別人の
クールな顔。
チラリと目があった…ような気がしたのは
多分、私が意識しすぎてるからだろう。
誰も知らない一時間は、
もしかしたら、
夢だったんじゃないかと思う。
…思ってた。
その数日後。
昼休憩で私が持ち場を離れた時、
一人の男性が話しかけてきた。
特徴的なのは、目。
柳の葉のような、切れ長の。
『…小春さん、だよね?』
仕事の用なら、受付に来るだろう。
ましてや、
私個人を訪ねて来る人など、いない。
『…』
完全に不審者を見る目付きで、
無言のまま、目線をやる。
『あ、俺、木葉っていうんだけど。』
…彼が差し出した名刺の社名は
確かに取引先のひとつで、
その下には"木葉 秋紀"と書かれていた。
『あかーしがさぁ、君と連絡とりたい、って。
社内で声かけると面倒なことになるから、って。』
…意味がわからない。
赤葦一族の名前を語った不審者?
その前に、なぜ、私に?
『…もしかして俺のこと、不審者と思ってる?』
思わずコクンとうなずいた私に、
"木葉"さんは、その切れ長の目を細めて
苦笑いをした。
『だよなぁ。…ちょい、待って。』
"木葉"さんが、目の前でスマホをかける。
『おい、あかーしぃ、やっぱ俺、
不審者扱いされてるってば。
ちゃんと自分で、説明しろや。』
ほい、と、スマホを渡される。
『…京治だけど。』
これ、典型的な
オレオレ詐偽の手口じゃないっけ?
『…』
『信用してない?じゃあさ、何か質問して。
俺とあんたしか知らないような、
他の人じゃ、わかんないような質問。』
…私達しかしらないこと?そんなこと、
あっ。
『この間、着ていらっしゃったタキシードは
どこのブランドのものでしたか?』
『あん時は…なに着てたっけ…
えぇと…んー…あぁ、ラクロワか。』
そう。
高そうな、クリスチャン・ラクロワを
無造作に脱いだあの仕草。忘れられない。
『これで、信じてくれた?』
『…はい。』
でも、なんの用が?
『…頼みがある。』
『何でしょう?』