第18章 誓いの言葉
一時間後。
魔法が解ける時間。
『あの…京治さん、一時間、たちました…』
声をかけてそっと揺すると
彼は、ゆっくりと目を開いた。
下から見上げる物憂げな顔。
右手で目をこすって。
『ん…あぁ…ありがとう、気持ちよかった。』
『それならよかったです。私こそ、
助けて頂いてありがとうございました。』
起き上がった彼。
大きく伸びをする。
ふわり、と香水の香り。
柑橘系…外の暑さを忘れさせる、
さわやかな香りがする。
あの柔らかな髪を
何とはなしに、自分で
クシャクシャと触っている。
多分、これは、癖。
きっと寝起きは、いつも、そう…
『…俺、
シャワー浴びてから降りるから、先に行って。
大丈夫、今ならショータイムだから
途中で入っても、誰も気づかない。
…あと、兄さんに声かけられても
テキトーにあしらっていいから。』
『ほんとに、ありがとうございました。』
『…ごめん、名前、なんだっけ?』
『小春、です。』
『あぁ、そうだった。覚えとく。』
…覚えとく、だって。
きっと、明日には忘れるんだろう。
それでもいい、と思った。
一生に一度も有り得ないような
夢のような一時間を過ごせたから。
扉の前でもう一度お礼をいって、
私は、会場へ戻る。
ステージでは、
今、話題のイケメンマジシャンが
ポスターの中のハンバーガーを
取り出してみせて、会場を沸かせている。
みんなと一緒に拍手をしながら、
それでも心の中では
『さっきの一時間の方が
ずっと魔法のようだった』と思う。
それが、
"赤葦 京治"
私の人生を変えた人との
静かな出会いだった。
大きなものを背負い、
クールな表情のなかに
静かで強い志を持つ人。
私は、
人生を賭けて
彼を信じる。
どんなに離れても、
どんなに会えなくても。