第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
…12月。
付き合い始めて半年。
とても心地よい間柄で
つきあいは続いていた。
日常生活では相変わらず
"武田さん" "早瀬さん"と呼びあい、
セックスの最中だけは
"いってつさん" "アキさん"と呼ぶ。
気になることは何でも話し合い、
ケンカせずに解決出来るのは、
武田さんの言葉の力と懐の深さが
全てだ。
…1月。
初めて、二人で新年を迎えた。
一緒に年を越し、
一緒に初詣に行く。
年の瀬から三ケ日まで
ずっと一緒に過ごすうち、
『このまま、一緒に住もうか?』
という話になる。
もともと家も近かったから、
別々に家賃を払うのも、
別々の家に帰るのも
意味がないよね、ということで。
…2月。
そして私たちは、
一緒に暮らし始めた。
引っ越しの時に、
お互い、相当な数の本を処分した。
その時、武田さんが
『いつか家を建てるときは、図書室、作ろう。
子供のための本棚と読書スペースも。』
と呟いたのが聞こえて、
『あ、結婚、考えてくれてるのかな。』
と思ったことを覚えてる。
でも、
どのくらい先のことになるかは
想像もつかなかった。
…結婚に対する憧れが
ないわけじゃないんだけど、
むしろ、
同棲がこんなに楽しいなら、
ずっとこのままでもいいかな、と
思っていて、
武田さんが
『結婚』という言葉を出すことを、
少し恐れてさえいた。
あの母の娘である私が、
子供を愛せるのか?
幸せな家庭を築けるのか?
もしかしたら
武田さんに嫌われるかもしれない、
いつか私も離婚するかもしれない、
それなら、結婚せずに
今のままの"事実婚"でいいんじゃない?
…と。
多分、武田さんも
私の揺れる気持ちや消えない迷いを
なんとなくわかってくれていて、
結婚について何か言ったり
実家に連れていかれたりはしなかった。
…まだ、
人生の歪みを矯正しきれていない私を
黙って待っててくれて、ありがと。
そう思いながら、
寒い季節も心暖かく過ごした冬だった。
のに。