第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
それなのに。
『ねぇ早瀬さん。次に進んでもいいですか?』
…って。
名前、呼んでほしいのに。
もちろん、次に進んでほしいのに。
わかってもらいたくて、
思いきり熱い目線で気持ちを送る。
『なんですか?』
もうっ…もうっ!
言わせるの?言わなきゃダメなの?!
『…いってつさん、お願い。
私のことも、名前で、呼んで下さい…』
『わかりました。
…アキさん、次に進んでいいですか?』
…さん、は残るのね…
『はい。』
『次って、何を想像してます?』
『…脱がされて、愛されること…』
『そうしてもらいたいんですね、いいですよ。』
シャツに手をかけた武田さん。
荒々しく、かと思ったら、
突然、抱き締められる。
『傷…隠さないで下さいね。
アキさんを全部、知りたいから。
…約束してください。そしたら、脱がせます。』
この優しさがある限り、
武田さんのSは、私には甘い、S。
SugarのS、と同じ事。
甘くて、ほろ苦い、私だけの、S。
『約束します。どこも、隠しません。
だから、脱がせて、愛して…』
『じゃぁ、』
グッと手を引かれて、
寝室へ連れていかれる。
…さっき、私がシーツをかけに行ったから、
そこが寝室だと、迷いなく扉を開ける武田さん。
ベッドの前に立たされる。
『どっちから、脱ぎたいですか?上?下?』
『…上…』
ジェラピの柔らかいシャツをめくりあげ、
頭を脱がされると、
両手はそのまま、ベッドにそっと倒される。
『手が…まだ…』
『そのまま。僕が、あとで脱がせますから。』
両手を絡めとられたまま、
体の傷ひとつひとつに、
優しいキスをおとされる。
『…よく、耐えてきましたね。
あなたは、強い。
この傷一つ一つが、その証明ですよ。』
涙がこぼれる。
今までは
『うわ、痛そっ!』『ひっでー親だなぁ』
なんて言われることがほとんどだった。
『ロウソクプレイでもしたんじゃねーの?』
なんて、言われたこともある。
『よく、耐えてきましたね。』
そんな優しい言葉を言われたら…
手が使えないから、涙が拭えない。
こぼれる滴に気付いた武田さんは、
『強い人の涙は、美しいですね。』
そう言って、
泣き止むまでいつまでも、
私の涙を拭ってくれた。