第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
…嘘の私でもいいから、愛してほしい?
それとも、
嫌われてもいいから、
ホントの私をわかってほしい?
どっちがいいか、わからない。
でも、武田さんには、
嫌われたくないと思う以上に、
嘘はつきたくない、と思う。
『武田さん…見てください…』
シャツをめくる。
お腹や、背中。
たくさんの、小さなヤケドの跡。
『…タバコ、ですか?やいと?』
『どっちも、です。ここだけじゃなくて、
下を脱いだら、そこにも、たくさん…』
シャツをめくりあげた私の手を
そっとおろしてくれた。
『…おうちの方、に?』
『はい。
父が、お酒や女性にルーズな人で。
母は、それが原因でケンカをすると、
イライラを私にぶつけてくる人でした。
雨が降ると、傘をさすでしょ。
泣いてても人に見られないし、
雨の音で、悲鳴や泣き声も聞かれない。
我慢しなくていいから、
昔から、梅雨が好きだったんです。』
だから、水着は着られない。
だから、梅雨が好き。
消えない傷は、心にも。
『母や父を見返したくて…
わかりやすい幸せをたくさん手に入れて
私はあなた達とは違う、って言いたかった。
でも、それは多分、
父や母に言いたかったというより、
自分にそう言い聞かせるため、というか…』
わかりやすい、幸せ。
見た目のいい男。
人が羨むような肩書き。
お金やブランドもの。
でも、一番欲しいものが何か、気付いてしまった。
愛しあうこと。
信じあうこと。
私の家族に足りなかったのは、それだ。
『…うっとおしいですよね、こういうの。
ごめんなさい。』
…武田さんがどんな表情なのか、
見るのが怖かった。
受け止めてほしくて告白したけれど…
もしドン引きされてたら。
『ごめんなさい、じゃないですよ。』
ふわり。
柔らかいTシャツの生地が、私の頬を包む。
『言葉にするのも辛いでしょうに…
話してくれて、ありがとうございます。』
『でも…私を見る目、変わったでしょ?』
『ええ。』
やっぱり。
歪んだ上昇志向の、イビツな女。
『早瀬さんは恋愛、上手そうだから
きっといつか僕なんかじゃ
物足りない日が来るだろう、と
ビクビクしてたんですけど(笑)』
…え?
『僕が早瀬さんのために出来るがことが
ハッキリしました。
これで自信をもって、愛せます。』