第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
自宅で初めて彼と夜を過ごすとき。
ほかの女性は、どんな格好をするんだろ。
…家で、バスローブ、着ないでしょ?
スケスケのベビードールだって、
家で着るもんじゃないし。
眠る体制万全のパジャマってのもね…
私、普段はウニクロの
ルームウェア来てるけど
こういう時は、ジェラートピケ。
…もう、年齢的に厳しい、かな?
武田さんは、
シーツだけでなくタオルケットにも
アイロンをかけてくれていた。
…上手だ。隅々までキリッと。
『ありがとうございます!
ちょっと、待っててくださいね。』
ベッドルームに行ってシーツをかけ、
そしてもう一度、リビングへ。
『乾杯、しません?』
二人で、もう一本づつビールをあける。
コツン、と、缶をぶつけ、ゴクゴクと。
…男の人にお酒を飲ませるのには、理由がある。
酒乱でないかどうか、見極めたい。
うちは、父が、そうだったから。
お酒を飲んで人が変わる男性は、
絶対に、イヤ。
2本目のビールを飲む武田さん。
あまり強くないのか、
もう、少し顔が赤い。
『…あんまり、飲まないんですか?』
『ええ、乾杯のビールは
確かにおいしい!と思うんですけど、
そこから先は、もうつきあい程度ですね。
出世できないタイプかも(笑)
カッコ悪くて、すみません。』
…そんなこと、ない。
つきあい程度で留めておけるのは
理性的な証拠だ。そこを越えてしまうと…
うちの父みたいになる。
さらに、
"カッコ悪くて、すみません"
それをサラリと言えるのが、すごい。
『武田さん、すごいですね。』
『え?今、僕、
ダメなことばっかり言いましたよ?』
『…そこが、すごい。
自分のダメなところを
自分でサラッと言えるのが羨ましいです。』
『誰にでもは、言わないですよ。
きちんと僕を知ってほしい人には、
嘘はつきたくない。それだけ、です。』
…私には、それが出来ない。
どうしても、愛されたくて、弱味を隠す。
相手に都合のいいようにふるまってしまう…
黙っている私の気持ちがわかったかのように
武田さんが言った。
『"嘘で固めた自分で愛されるより
本当の自分で嫌われた方が、
気持ちいいではないか"。
…これ、ジイドの言葉なんですけど、
僕、この言葉を知ってから、
随分、自分のコンプレックスと
向き合えるようになったんですよね。』