第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
…サイテイだ。サイアクだ。
なにがって、
こんな男とつきあってた自分が。
『…お断りします。』
『いや、今の相手と別れるわけじゃねーよ?
バレないように、うまくやろうや。
俺ら、セックスの相性、よかったじゃん。』
…こんな男と話してるところ、
武田さんに絶対、見られたくない。
『…お願い。もう、あっちいって。
そろそろ彼女もトイレから戻るでしょ?』
『なんなら、今、二人で消える?
相手には、後から謝ればいいじゃん、
急用が出来たから、ってさ。』
手を掴んできそうな勢いに、
おもわず頭に血がのぼった。
『やめて!』
…パシッ、と響いた音は、
静かな音楽では隠しきれなかったようで…
周囲の人が、何事かとこっちを見る。
『…このヤロ…ふざけん…』
やり返される?…思わず目をつぶった時に、
間延びした女の子の声が近づいてきた。
『あれ~、マコト君、知り合い~?』
…彼女が、トイレから戻ったらしい。
顔をみて驚く。
あの、私に宣戦布告しに来た子じゃない。
金持ちで遊び上手で、顔も、まぁ、いい。
女には事欠かない人なんだ。
こっちから別れてよかった。
むしろ、あの"宣戦布告ちゃん"に
感謝したいし、同情したいくらい。
『お、おう、仕事の知り合い?!っつーか。
お疲れ様です。んじゃ、また!』
…フンッ!また、じゃねーよ、ばーか。
二度と会いたくないしっ!
若くてキラキラした、
でも世間知らずな顔をした彼女の肩に手を添え、
何事もなかったように去っていく、元カレ。
その背中を見送ってホッとしたと同時に
ハッ?!
まさか、武田さんに見られてない?!
キョロキョロと見回してみたけど…
よかった、まだ戻ってきてない。
思わず、自分の顔を手で触れる。
爪や牙を剥き出しにしたような
怖い顔、してるんじゃない?!
…でもそれも、
間もなく戻ってきた武田さんの顔を見たら
自然に笑顔に戻れた。
…よかった、絶対、見られたくなかった。
あんな男と話してるところも。
あんな男に手をあげたところも。
見られたら、おしまいだった。
『ちょっと混んでて。
お待たせしてすみません!』
マコトのチャラい顔を見た後だと、
武田さんの誠実さが、際立って見える。
…私は、武田さんが大事。
改めて、そう思う。
だからこそ…
そろそろ、求めてほしいな…