第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
私の欲望はさておき(笑)
外国のリゾート地のような雰囲気が
あんまり居心地がよくて、
飲み物を買って、くつろぐことにした。
海に向かって座る丸太製の長テーブル。
折り畳み式のウッディーなテーブル。
縁台のようなベンチとテーブル。
もちろん、砂浜へつながる階段もある。
座る場所には事欠かない。
私達は、
白い大きなパラソルの下のテーブルへ。
乾杯をして、のんびり…
空には大きな月。
大潮で、すぐそこまで満ちてきた波の音。
風はないのに暑くない、最適な気温。
ビーチに灯る小さくてたくさんの灯り。
オレンジ色のキャンドル。
…妄想は膨らむ。
こ、これって、新婚旅行みたいじゃない?!
『もう一杯、飲みます?』
運転してくれる武田さんに気を使って
私もソフトドリンクを、と言ったのに、
私にはオレンジカクテルを買ってくれた。
それがあまりにおいしくて、つい
あっという間に飲んでしまったのだ。
武田さんがおかわりを買いに行ってくれ、
私は改めて、心地よさを噛み締めていた。
その時。
『よ、アキ。久しぶりじゃねーか。』
幸せな空気をぶち壊す、この声。
顔を見なくてもわかる、この声。
前のカレだ。
『本ばっかり読む女はつまんないって。』と
浮気相手が宣戦布告しに来た、あの、カレ。
潮の香りを台無しにする、ムスクの香り。
波の音をぶち壊しにする、チャラい声。
…サイアク。なんで、今?
『…お久しぶり、です。』
『なんだよ、よそよそしいなぁ、
お前にフラれて、寂しかったぜ。』
…嘘つけ。浮気相手と楽しんでたくせに。
『な、さっきの、新しいカレシ?
お前、趣味、変わりすぎじゃね?
俺の後に付き合うには、ちょっと
タイプ、違いすぎだろ?
何?どっかの金持ちのボンボン捕まえた?
お前の寝技、最高だもんなぁ。』
『…やめて。そんなんじゃないし。』
『いいじゃん。俺も、今日、
新しい彼女とデート中なんだけどさ、』
『は?』
『あぁ、今、トイレ行ってる。
若すぎて、つれ回すにはいいんだけど…』
ムスクの香りが耳元に近づく。
…気持ち悪い…
さらに、気持ち悪い囁き声が聞こえる。
『ベッドの上じゃマグロなんだよね。
アキくらいサービスしてくんないと
つまんねーわ。な、お互い、
今の相手には内緒でさ、
俺ら、ヤリ友になんね?』