第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
…季節の変わり目は
空気や光が教えてくれる。
週末のその朝、窓を開けたら
確かに夏の匂いがした。
空の濃い青も、雲の濃い白も、
セミの声を届ける空気の分厚さも
夏仕様に切り替わって。
…梅雨、終わったな…
眩しい季節は、自分の弱さや傷まで
照らし出されるようで、苦手だ。
でも、今年の夏は、武田さんがいる。
今までとは違う夏になるといい…
そう思いながら、寝具を夏用に取り替える。
…連休がとれたら、泊まりにきてくれる、
そう言った武田さん。
あれから、日帰りデートは何度かしたけど
まだ、お泊まりには…身体の関係には…
至らないまま。
この間の別れ際、初めてのキスは
突然で、情熱的で、忘れられない。
あの勢いならきっと、すぐにでも
抱いてもらえると思ってたのに…
私の気持ちを知ってか知らずか、
キスだけの関係で、やがて一ヶ月。
冷たい綿のシーツが
気持ちいい季節になった。
じれったい気持ちを一緒に洗い流したくて
シーツとタオルケットを洗濯機へ。
…もう、さすがに
コインランドリーには行かない。
それでも、やっぱり、洗濯は好き。
夏は、柔軟剤も、さわやかな香りに変える。
この香りのシーツに二人で寝そべれたら
今年の夏は、きっと特別になるのにな…
洗い終わった洗濯物を
青空と暑い空気に託し、
冷たい麦茶を飲もうと
キッチンへ向かった時
スマホがなった。
武田さんからの着信音だ!
『もしもし!』
『早瀬さん、今日はお休みですか?』
『はい、今、洗濯してました。』
『僕、午後の予定がポッカリ空いたんですけど、
お天気もいいし、どこか遊びにいきませんか?』
『い、行きます!』
『よかった。じゃ、
一時間後にお迎えにあがりますね。』
…明日は、お仕事ですか?…って
聞けなかった。
肉食女子の牙と爪は
一体どこにいっちゃったんだろ…
それでも、
一緒に過ごせるのは嬉しい。
明日の事は考えないようにして…
どこに行こうか。
今日を楽しむことを一番に。
一時間で、デートモードに切り替え。
…その日、まさかの場面で
私の牙と爪が顔を出すことになるとは、
まだ、この時は、知らなかったわけで。