第17章 ジューンブライド ～クリスタルウェディング～

恋をしたことがある女性は
同じ気持ちを経験したことある？

会えない時間の不安定な気持ち。

"不安"じゃない。
"不安定"な気持ち。

この違い、全女子の皆さん、
わかりますよね？！


信頼してる。
これっぽっちも疑う気はない。
だから、"不安"じゃない。


だけど、
次の約束がないと、
なんだか落ち着かない。

自分から誘うって、お行儀悪い？
こんなに思ってるのは、私だけ？

朝から占いが気になる。
コーディネートより、
ラッキーカラーを中心に服を選ぶ。

本屋でつい、"彼が喜ぶおうちご飯"
系の本を手に取ってしまう。

同じ色の車が、全部、彼の車に見える。

用もないのに、
彼がいそうな道を通ってしまう。

ガムを選ぶとき、
いつもより女子らしいパッケージのものを
手にしてしまう。

風呂場やトイレの掃除が念入りになる。
部屋用スリッパも１揃え、新しく。
…色は、迷ったけど、紺色。

もしもの時に備えて、
お客様用歯ブラシセットを準備。

お箸と食器が、ペアで欲しくなる。
新しい急須を買った。
一人なら使わないランチョンマットに
アイロンをかけて。
買い置きのインスタントコーヒーは
いつもより少し高いヤツ。

派手なネイルはしなくなった。
薄いピンクのフレンチネイル。
ペディキュアも、剥げないうちに
塗り直す。

…全部、次に会うときの為に。
でも、いつ、会える？

ランチタイムに大きなため息をつく私に
既婚者の同僚が言った。

『その不安定な時間が "恋" だよねぇ。

結婚は "安定" だからさ。

無駄にドキドキしないのが、
結婚のいいところでもあり
残念なところでもあるって思うわ。』

『…ドキドキ、しない？』

『ドキドキすんのは、
夫のボーナスシーズンくらいよ(笑)
ね、アキちゃん、そのドキドキ、
贅沢な時間だからっ。

今、アキちゃんの体内、
女性ホルモン、大放出中なんだろうなぁ。
羨ましいっ！』

…彼女は、
私のランチの残りまでパクリと平らげ、
『さ、行こうか、妄想ガール。』と
歩き始めた。
職場では、仕事の出来る同僚、だけど
家に帰れば、妻で、母。

…みんな、こんな気持ちを乗り越えて、
結婚してるんだね。
始まったばかりの恋で
身動きがとれない私には、

彼女のその颯爽とした姿が、眩しかった。