第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
…唇を離した武田さんが、笑って言った。
『ね?ギリギリの我慢でしょ?
ホントはこのまま押し倒したいくらい。でも、』
わかる。
言いたいのはきっと、あの時の言葉。
だから、
そこから先は、私が引き継ぐ。
『1度に何もかも知ってしまったら、
楽しみが減ってしまいますから、ね!』
『そうそう。』
気持ちが通じたのが嬉しい、という顔で
もう1度、武田さんが抱き締めてくれた。
『次に会うまで、毎日、早瀬さんのこと
考えますから。朝も、夜も。』
『…お昼は?』
『…昼休みに、考えます(笑)』
『私は、朝と、10時と、お昼と、3時と
5時と、夜と、寝る前に、武田さんの事を
考えます。』
『それは、考えすぎです。
ちゃんと、仕事して下さい(笑)』
抱き締めてくれた腕から、
そっと離される。
名残惜しくて、涙が出そう…
『おやすみなさい。』
『…おやすみなさい。』
ドアに向かった白いポロシャツの背中が
愛しくて…
靴もはかずに踏み出して、
そのまま後ろから抱きついてしまう。
ドアノブにかけた手を離し、
もう1度、振り返ってくれた武田さんは
今度はおでこにキスをしてくれた。
『早瀬さん、
次に会う日まで毎日楽しみに過ごせる僕は、
ドラッガーより幸せですよ。』
では、また。
そう言って、もう1度抱き締めてくれて、
そして、ドアが閉まった。
部屋の中に、
さっきまで二人でいた賑やかな空気が
忘れ物のように漂っている。
しばらくぼんやりとその部屋を眺めた私。
そして、思う。
私も、
次に会うまでの時間を
大事にしよう。
パックして。
ちゃんと美肌タイムには眠って。
本もたくさん読んで。
おいしいお店もリサーチして。
料理も勉強しよう。
部屋も、いつもキレイにして。
…格言。『恋は、最高のエステである。』
By 早瀬 アキ …なんちゃって(笑)
そうやって、
まるで
今までのヨコシマな
恋愛ゲームのデータを
リセットするかのように、
まるで初恋からやり直すように、
私は、初々しい気持ちで
この恋に心を委ねた。