第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
武田さんは、料理が上手だった。
なんでも大学生のころは節約のため、
賄い目当てで、ずっと食べ物屋でバイト
していたらしい。
わぁわぁ言いながらお好み焼きを焼くのは
楽しかった。
車で帰る、という武田さんは
ずっとノンアルコールを飲んでたけど、
私は自分の家だから、すっかり気が緩んで、
ビールを気分よくあける。
酔った私を横目に
片付けまでしてくれた武田さんが
『そろそろおいとましようかな。』
…と言った時には、私は程よく出来上がり…
『えぇっ?もう、帰るんれすか?
泊まってけばいいのに~』
…と、お酒の勢いがないと言えないことも
言ってみたりして…
『明日は、仕事ですから。』
『え~っ?じゃ、いつなら泊まります?』
『次の日が、休みの時に。』
『絶対?絶対の絶対?約束してくれます?』
『約束します。』
『ホントに?』
『…そんなに、誘わないで下さい。
僕も、ギリギリの我慢で言ってますから。』
ドキン、とする。
ギリギリの、我慢…
もう一押し、してみるべき?
それとも、そうですね、って
引き下がるべき?
迷ってるうちに、
武田さんの方が、先に立ち上がる。
『ごちそうさまでした。
今日は1日、つきあってもらって、
ありがとうございます。』
…玄関で靴を履く武田さんを見守る。
結局、引き留められなかった。
手も繋げないままだった。
肉食女子、失格だよ…
シュンとしちゃう…
『あれ、元気なくなってませんか?』
『急に一人は、寂しいです…』
おやおや、という顔で笑う武田さん。
『甘えてくれて、嬉しいです。
それじゃ、1つ、お願いしていいですか?』
『?』
『僕を、名前で呼んでみて下さい。』
名前で?
『…いってつ、さん?』
言葉の後、急に目の前が揺らぐ。
一瞬のうちに、
武田さんの両腕の中に、いた。
上から声が降ってくる。
『もう1回、呼んで下さい。』
そのまま、腕の中で、呼び掛ける。
『いってつ、さーん。』
フッ、と片手で頭を反らされる。
目の前に見上げる、武田さんの顔。
『…もう1回。』
『…いってつさんっ♥』
答えるように、
唇を塞がれる。
『…んんっ、いって、つ、さん…』
途切れ途切れの声を飲み干すように、
激しく、情熱的に、吸われる唇。
"ギリギリの我慢"
その気持ちが…伝わってくる…